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Re: Requiem〜約束の鎮魂歌〜/オリキャラ募集中 ( No.12 )
日時: 2010/01/08 17:40
名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)

Tune04 教会-church-

 大空を優雅に舞う一人の少女、エルゼリア=カーナック。
 灰色の翼を大きく広げ、羽ばたく。
 空から町を見下ろしても、ファトらしき人影は見当たらない。
 建物の中にいるのだろうか。

(公園と行きつけのお店は行ったし、あとファトが行きそうな所は……)

 エルザは上空で深く考えこんだ。ファトが行きそうな場所……。
 ファトの……好きな場所……。

 ふと、脳裏にひらめく場所があった。
 それは……。

「教会……」

 エルザはぐるりと方向転換し、進行方向を東へと変えた。

 ファトは度々教会へ行く。本人曰く、「落ち着く」という理由らしい。

 教会は、エルザの好きな場所でもあった。エルザは生前、ある町の教会の近くに住んでいた。
 そこでエルザは、毎日のように歌を歌っていた。
 エルザの澄んだ歌声は町中の人に評判で、噂を聞きつけわざわざ遠くから来る人までいた。
 それほどに、彼女の歌声は人々の疲れた心を癒し、包み込んだ。

(私が教会にいると落ち着くのは生前毎日通っていたからだけど……
 ファトは何故教会が好きなのかしら……)

 エルザはそんなことを考えながら教会へと急いだ。

          *

 「着いた……」

 教会に着くと翼をたたみ、透明化した。
 エルザは、自分の身長よりも大きな扉を勢いよく開いた————

 正面のステンドガラスと脇の窓から夕陽の赤い光が差し込み、
 教会の中を幻想的に交差する。

「ファト……」

 少年はその中心にいた。光を一身に受け、その体が赤く染まる。

「見つかっちゃった」

 少年はエルゼを見ていたずらっ子のように笑った。明るい笑顔。
 既に命亡きものとは思えぬような……笑み。

(私も、あんな顔で笑えたら……)

 そう、何度思っただろうか。
 明るく、それを見るひとまで笑顔にさせるような……。
 その笑顔ゆえに、エルザはファトが時折見せる寂しげな表情に、
 胸を痛めていた。だから彼女は少年に世話をやく。

 しかし、それとは別の何かに惹かれているのもエルザは感じていた。
 それが何なのかはまだわからないが。

「見つかっちゃった……ってねー」

 今日ばかりは、ファトの笑顔を目にしても笑うことはできない。
 エルザはうつむいた。

「あ、エルザ、怒ってる?」

 ファトがそれを覗き込むように聞くと、エルザはぱっと顔をあげた。

「怒ってるに決まってるでしょ!? 監禁中なのに出ていくなんて!
 このことは、しっかり長に伝えておくから!」
「そ、それだけはご勘弁!」
 
 ファトは怒りをむきだしにしたエルザに焦りの表情を浮かべる。

「今度ドーナツ買ってあげるからさ。ね、ね?」

 切実に両手を合わせて拝むように自分を見上げるファトを見て、
 エルザは怒る気が失せ、あきれ顔になって溜め息をついた。

「しょうがないなぁ……三つだよ?」
「了解です、ご主人っ!」

 ファトがもっともらしい顔をして敬礼するのを見て、エルザは言う。
 
「帰ろう!」
「ああ」

 そして二人が扉から出て行こうとした時————世界は、暗転した。