ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 呪術少女の奥義書-グリモワール- ( No.2 )
- 日時: 2010/01/04 12:13
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
1ページ目 呪術少女の召喚儀式
少女——エリズ=クロイゼルはその日の授業終了の後、学生寮にて苛立っていた。魔術“水竜”(ドラゴン=ロー)は暴走するし、錬金も大爆発を起こすし、ペナルティとして教室の居残り掃除。エリズが苛立つのも無理はない。
といってもこれくらい日常茶飯事なのだが、その事がエリズにとっては大きなコンプレックスだった。名家の娘で奥義書も所有し、神の力を宿す武器——神器さえも所有しているのに、どうやっても魔術が上手く使えない。
エリズは魔術はまったくできないが、伯爵家の娘という事で特別豪華な部屋だった。だがそれが、逆に皮肉のようにエリズは感じる。
「まったくどいつもこいつも、私を嘲笑う。こうなれば仕方無い……」
エリズは本を読まない主義だ。だがたった一つだけ読むものあった——奥義書。奥義書とは天使や精霊を呼び出す為の手段や、魔術や呪術に関する知識などが記されている書物。魔導書、魔法書などと言った方が分かりやすいだろう。
何とか魔術を上達させようと、エリズはいくつか奥義書を持っていた。その中の一つ『アルマデル奥義書』を本が殆ど入っていない棚から取り出す。アルマデル奥義書は天使、悪魔、精霊などを召喚する為の術が記されている、いわば儀式魔術用の魔導書だ。
エリズはアルマデル奥義書を抱えると、部屋の扉を開けた。
「天使を召喚して、奴らを見返してやる!」
彼女は天使を召喚する為、アルマデル奥義書を抱えて学院の儀式場へと向かう。学生寮から儀式場はそう遠くない。エリズは走って数分で儀式場へと辿り着いた。
儀式場は他の教室のどことも違う、独特の雰囲気が漂っていた。銀色の円柱で支えられており、中心部は儀式魔術で魔法円などを描く為の場所として他の床とは別の石で作られている。
召喚魔術用に用意してきた杖で魔法円を描き、更にルーン文字を刻んでいく。召喚魔術の準備が出来ると、エリズはすっと目を瞑り、呪文を唱える。
すると魔法円が突如光を放ち、風が辺りに巻き起こる。
「……ッ」
天使の召喚とは此処までの凄さなのかと、エリズ自身が唖然とする。
やがて風が止み、光の柱が消える。銀髪に翠眼の容姿をした、どこか幻想的な雰囲気を漂わせる少女がそこにいた。
少女は唖然としたままのエリズを見ると、口を開く。
『疑問、我を呼び出したのは貴方か』
小柄な美少女の容姿に合った、幼く淡い声。風を纏ったその少女は“まるで”天使のようだった。
「……どういう事だ? 私は大天使ラファエルを召喚した筈だ。——お前はラファエルなのか?」
『否定、貴方が召喚したのは“神の癒し”ではない。我は風の精霊“シルフィード”』
純白の翼を持たぬ少女は大天使ラファエルではなく、風を司りし精霊“シルフィード”だった。