ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 呪術少女の奥義書-グリモワール- ( No.3 )
- 日時: 2010/01/04 12:13
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
2ページ目 喚起されし風の精霊
精霊シルフィードは静かにエリズへと歩み寄り、エリズの真正面へと立つ。
『今一度問う。我を呼び出したのは貴方か』
特に表情を変えず、只真っ直ぐとエリズの目を見るシルフィード。エリズはまた魔術が失敗した事を悔やみながら、精霊の問いに答える。
「そうだ、お前を召喚したのは私だ」
『訂正、正確に言えば我は精霊故に“召喚”ではなく“喚起”が正しいだろう』
いちいち細かい事を言うシルフィードに、エリズはうんざりとして溜め息をついた。“召喚”とは神々や天使が対象で、それに対し“喚起”は精霊や悪魔などが対象となる。だがエリズはいちいち分けるのが面倒臭いので、どちらも“召喚”と言っていた。
そんなエリズの様子など気にせず、シルフィードは己の右手の甲を差し出してくる。召喚、もしくは喚起し呼び寄せた霊とは契約し、身体のどこかに契約の証としてペンタクルと呼ばれる五芒星形の魔法円を刻むのが、この世界トラオムでの契約方法だった。
つまり言うとシルフィードは契約を求めているのだ。エリズはしぶしぶ先程魔法円を描いた杖を取り出し、シルフィードの右手の甲に魔法円を刻む。
「一つ聞くぞ」
『何だ』
「お前、そんなに契約したいのか? 自ら進んで契約してくる霊など珍しいぞ」
エリズの問いに、シルフィードは即座に答える。
『解答、我はこの世界でやらねばならない事がある。その為に我は契約をする』
エリズにはシルフィードがやりたい事など分からなかったし、知る必要もなかった。それよりも、自分が大天使ラファエルの召喚の失敗した事に腹が立っている。天使の力を使えば魔術を上手く使えるようになり、他の生徒達を見返せると何とも単純で浅はかな考えだったが、それでもエリズには希望だった。
ペンタクルを刻み終えると、エリズ達は儀式場から出て行った。
***
翌日、エリズは自分の使い魔——精霊シルフィードを連れて教室に入ると、一斉にクラスの人間がエリズの方へと向く。正確に言えば、視線の先はエリズというよりはシルフィードだった。
昨日顎にエリズの強烈な蹴りを喰らった少年が、シルフィードを見ながらもエリズに言う。
「おいエリズ! 何だよそのヘンテコ使い魔! 喚起魔術にも失敗したか?」
『否定、少年、我はヘンテコ使い魔ではない。我の名はシルフィードだ』
シルフィードという名を聞いた瞬間、突如クラスの生徒達がざわめき始める。エリズは何事かと辺りを見回す。
「シルフィード? 今シルフィードって言ったか?」
「シルフィードって言ったら四大精霊のうち、風を司る精霊じゃねえか……。どうしてそんな凄えもんエリズが……」
「大方何か別の喚起儀式で間違えて喚起したんじゃねえか? としても……」
「そもそもあのちっこいのが風の精霊シルフィード?」
色々な言葉が教室内を飛び交う。当の噂の本人であるシルフィードは、多数の生徒に囲まれながら状況が理解できず小首を傾げる。
「エリズ、あの少女は一体どうしたのですか?」
エリズの元に長い金髪に翠眼の少女がやってくる。名はアニェーゼ=テスタロッサ。学院での成績が悪いエリズとは反対に成績良好の美少女。それでもエリズの少ない理解者の一人だ。
アニェーゼに事情を尋ねられると、エリズは真顔で
「大天使ラファエルを召喚しようと思ったら、間違えて精霊シルフィードを召喚してしまった。何だ、シルフィードってそんなに凄いものなのか?」
最早開き直っているのだろうか、口調が妙に落ち着いている。
「……凄いも何も、偶然にしては出来すぎです。そういえば最初は錬金の授業だそうですよ」
「何故それを言う……私への嫌がらせか……」