ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 呪術少女の奥義書-グリモワール- ( No.5 )
- 日時: 2010/01/04 13:04
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
4ページ目 支配された儀式場
「おい、シルフィード! どこへ行く気だ!? 不本意だが私は掃除をしなければならない!」
『問答無用、いいから来い』
シルフィードは最初からエリズの話を聞く気など無いらしい。
エリズが訳の分からないまま連れてこられた場所は、昨日の夜大天使ラファエルを召喚するつもりだったのだが、誤ってシルフィードを喚起してしまった儀式場の扉の前。中から何か物音が聞こえており、どうやら別クラスの生徒達が召喚魔術の授業を行っているらしい。
一体此処がどうしたとエリズがシルフィードを見ると、シルフィードはゆっくりと巨大な儀式場の扉を開ける。ギイと古めかしい音を立てながら扉を開くと、そこには学院の授業とは思えないおぞましい光景が広がっていた。
「こいつは……!」
『肯定、あれは幻獣“呪石鶏”(コカトリス)』
儀式場の中で暴れまわっている獣は、蛇の尾を持つ巨大な雄鶏の姿をした幻獣コカトリスだった。コカトリスは暴走しているようで、既にコカトリスの餌食となってしまった生徒達——石像と化してしまった生徒達が何体か床に転がっていた。
コカトリスとは見たり触ったりした人間を石へと変えてしまう幻獣。石に変える方法は接触以外にも、自らが口から吹きかける息でも人を石に変えてしまう恐ろしい能力を持つ。その危険な能力から、王立ノルデン魔導学院ではコカトリスは召喚してはいけない幻獣となっている。
ならば何故、コカトリスが儀式場にいるのか。誰かが召喚したとしか思えない——。
「何故学院にコカトリスが——」
『解答、貴方は昨日我を喚起した時使った魔力を消していかなかった。召喚魔術、喚起魔術などは終わった時魔力を消していかねばならない——次に召喚魔術を行う者が、残った魔力と自身の魔力を入り混じらせて違うものを召喚させない為にな』
「あ……」
そう。エリズは昨日、大天使ラファエルを召喚出来なかったショックでうっかり残った魔力を消すのを忘れてしまったのだ。
まだ餌食となっていない生徒達や、コカトリスの強大な力にどうすることもできない老女。そんな光景にエリズは呆然と見つめばかり。
シルフィードがエリズの腕を叩く。
「な、何だ。これが私の責任だと言いたいのか?」
『解答、その通りだ。だから我々が後始末をしなくてはならない。安心しろ、我がいる』
「そんな事言っても——」
エリズは怖かった。よりによって間違って召喚されたのは人を石に変えてしまう幻獣、コカトリスだ。責任は感じていたが無闇に手を出せば、自分も石に変えられてしまうのではないかという恐怖がエリズにあった。
だがシルフィードはコカトリスにも臆することなく言った。
『我は四大精霊の“風を司りし精霊”(シルフィード)だぞ?』
たったそれだけの言葉だったが、エリズにはどこか希望を感じる事ができた。
精霊の言葉に答えることなく、エリズは幻獣が支配せし儀式場へと足を踏み入れる。
『……』
「早く来い、風の精霊」
どこか照れ隠しをしながら、エリズは宣言した。
「私とお前で——こいつを倒す」
その言葉に、シルフィードは只こくりとだけ頷いた