ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.10 )
- 日時: 2010/06/26 17:24
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: EeSEccKG)
第九話〜穏やかな過去〜
葵たち全員が着替えを終えた頃、蒐は結構広い空き地に立っていた。辺りを見回し「さて……ここが昔の流架の家じゃな……空き地じゃが」と呟く。姿を見られるといけないので、近くの物陰に姿を隠すことにする。
時渡りをした場所で人に姿を見られただけで過去や未来を変えたことになる。小さなことだが、その場所には居ないはずの存在なのだから仕方が無い。まぁ、姿を見られても大丈夫な例外もあるのだが。
その例外とは、自分の姿を見た者が時渡りの者の者だった場合だ。同じ力を持った者同士なのだから、当たり前といえば当たり前である。
「さて……どうしようかのう」
困ったような顔をしながら呟く蒐。身を隠したは良いがどんどん子供たちが集まってくる。どうやらここで遊ぶ約束をしているようだった。息を殺し、物音を立てないようにしながら辺りを覗う。
「おにーちゃん。そこで何してるのじゃ?」
声をかけられ、ビクッと震え、恐る恐る顔を上げれば茶髪に紫の瞳の少年。蒐は少年の顔を見てほっとしたように息を吐く。少年は目を丸くして「あれ? 未来の我か?」と問いかける。
コクリと頷いた蒐を見て、ため息をつき「ここに居たら絶対見つかるぞ。抜け道……分かるじゃろ? そこを使うのじゃ」と言う。蒐は思い出したような顔をし、お礼を言ってから、自分の記憶の中にある抜け道の方へ歩いていく。少年はそんな蒐を見て「やれやれ」と呟くのだった。
蒐は抜け道をつかい、どうにか人気の無い道に出た。ホッと胸を撫で下ろし、どうやって來斗の過去を見ようか悩んだあと、自分の肩に乗っていたフーガを見て、フーガの力を使えば透明になれるんだったと思い出す。
「フーガ。今、透明になれるか?」
蒐に聞かれフーガはコクリと頷く。蒐は「ならば頼む」と言い、フーガを肩から下ろし優しく微笑む。フーガはニッコリと笑って「了解」と言い、指を鳴らす。
「さてと……これで姿を見られる心配は無いな……久しぶりじゃから、透明になれるのを忘れておったよ」
これでさっきみたいに、過剰に心配する必要は無いと考え、自分に向けて苦笑いを浮かべる蒐。まぁ少年に声をかけられたところで、もう自分の命は終わりかと言う言葉が頭を巡ったりしたし、不安で不安で鼓動が早くなったりもした。
「さて、幼き來斗を探すとするかのう」
そう言って歩き始める。歩き出してすぐに見つかると言う都合の良い事があるわけが無いので、かなり長い間辺りを歩き回っていた。
三時間は歩き続けただろうか? 流石の蒐も体力に限界を感じ始めていた。最終的にたどり着いたのは、紅蓮という表札のかかった立派な門の前。蒐は小さな声で「紅蓮……。ここは幼き來斗の家か」と呟く。
蒐は門だけ見てもお金持ちと言うような感じだな、そう考え、中に入ろうとしたところにちょうど、幼い來斗と來斗と同じくらいの年の少女が走って門から出てくる。どうやら家を抜け出してきたらしい。
黙って二人の後を追う蒐。ストーカーとかそんなことは気にしていなかった。別に見えてないんだしとか、頼まれなきゃこんなことしたりしないと完全に開き直っていたりする。
「來斗さん早いです……」
そう言いながら必死に幼き來斗を追いかける少女。そんな少女と幼き來斗を見て、ほほえましい光景だなと考え薄い笑みを浮かべる。幼き來斗は少女を急かしながらも、少女が転んだりすれば心配そうに駆け寄っていく。
「この過去はまだ穏やかじゃな……となると問題はもう少し後で起きるのじゃろうか?」
そう呟き静かに目を閉じて息を吐く蒐。そのまま手を横に広げ、「我をこの過去から見て少し未来へ……ロード」と呟けば、少し風が強くなり、光が蒐を包み込んでいくのだった。