ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.13 )
日時: 2011/03/29 18:58
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十一話〜動き出す時、ジャッジメントの目覚め〜

 蒐が現れたのは何処かの広い空き地。力なく木に寄りかかったまま動かない蒐の周りを飛び回るフーガ。飛び回っているうちに淡く光る水色の石を見つけ不思議そうな顔をする。
 「っう……ここは……?」
 ゆっくりと目を開き、辺りを見渡す蒐。水色の石を見つければ、不思議そうな顔をしながらそれを手に取り黙って見つめる。水色の石が放つ光は蒐の手の中で揺らぎ続ける。フーガは蒐が目覚めたことに安心し「何なんでしょうね? この石」と言い、石を見つめる。
 「さぁ……まぁ流架の家に戻ろう。何だか記憶が曖昧じゃ……」
 とりあえず石をポケットに入れ歩き出す蒐。ぼんやりと何があったんだっけなと考えながら歩いてゆけば三十分ほど歩いた所で迷子。困ったような顔をし「迷ったのう……まず目覚めた場所がどこか分からない時点で終わっていたのじゃが」と呟く。
 「うわぁ。なんか暗いよぉ? 流斗ルトぉ」
 蒐のポケットからやけに明るい女の子の声。蒐は思わず目を見開いてポケットから光る石を取り出す。石が放つ光はさっきよりも強くなっていた。黙って石を地面に叩きつけようとすれば「……そこの方。絶対これを地面に叩きつけないで下さい。僕たち諸共砕けます」と石から静かな声がする。
 何がなにやら分からなくなって固まってしまう蒐。フーガも同じである。そんな蒐とフーガに更に「そこの人ぉ。この声聞こえてるんでしょぉ? ここから出してよぉ」と怒鳴る声と「……黒奈クロナ五月蝿い」と言う声。蒐はもう笑うことしか出来ないようだ。

 「……とり合えずここから出してもらえますか?」
 突然笑い出した蒐に驚いたような声が石からして、石が更に強く光る。石からの声に大分慣れたのか冷静になり「出せと言われても、我は何をすれば良いかわからぬのじゃが」と言い、石を手の上で転がしてみる。そうすれば石から「回さないでぇ。酔うよぉ」と言う声。
 「……黒奈、無駄に明るい少女声は無視してくださいね。とりあえずこれから僕が言うことをやってください」
 静かな声で何をすれば良いかを話してゆく石からの声。やることは簡単だった。ただ単に石を空に向けて投げ、サクリファイスの技をぶつければ良いだけだ。蒐が「簡単すぎるのう……これなら他の奴でも良いのでは?」と言えば「……いや。……そういうもんじゃないんですね。そもそもこの声が聞こえる人ってほとんどいませんし、それ以前にこの石って普通の人には見えませんから」と答える石の声。
 少しむっとして「それは我が普通じゃないと言っているととってよいのかのう?」と問いかける蒐。石の声は「……時渡りの能力を持っている時点で普通じゃないでしょう? とりあえずさっさとここから出してください」と言う。
 「はぁ……分かったよ」
 蒐は深いため息をついた後に石を思いっきり空に向かって投げ「フーガ、黒蝶ブラック・バタフライ」と言い石を指差す。フーガは「了解。標的捕捉完了。飛べ!」と言い石を指差した後、石に向かって真っ直ぐ飛び上がる。どこからか出てきた黒い蝶がフーガの前を飛び、石にぶつかる。
 石から放たれる鋭い光。蒐は思わず目を瞑り、光が消えるのを待つ。異常に長い沈黙。蒐は光が消えてしばらくしてゆっくりと目を開く。そこにちょうどフワリと降りてくる、水色の髪の少女と少年。
 少女は緑色のリボンで髪をツインテールにしていて、紫の瞳。服は黒と赤のワンピースで白いブーツを履いている。名は黒奈クロナだ。黒奈は伸びをした後に「正のジャッジメント、黒奈。今ここにぃ!」と明るい声で言う。
 少年の方は腰ぐらいまでの水色の髪に、輝きの宿っていない黒い瞳。服は黒と白が中心で下は短パン。なにやら不思議な杖のようなものを持っていた。名は流斗である。流斗はため息をついてから「……負のジャッジメント、流斗。今ここに」と言う。

 「ふー。感謝しますよ。お礼に貴方が行こうとしていたところに送り届けてあげます。負のジャッジメント、流斗の名の元に」
 そう言って蒐に杖を向ける流斗。杖から出た光は、ゆっくりと蒐を包むこんでいくのだった。