ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.14 )
- 日時: 2011/03/29 18:58
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)
第十二話〜崩れる絆〜
気づけば流架の家の前に立っていて、もう混乱状態の蒐。とりあえず曖昧な記憶を探り、自分が何をしていたのかを考え、ようやく時渡りをしたことを思い出す。困ったような顔をし「見てはいけぬものだったらしい……。確か來斗に関わることだったはずじゃが」と呟く。
雨も降っているわけで流石にこのまま外にいるわけにはいかない。そこで流架がどう自分が消えたことを誤魔化したかを考える蒐。おそらくは怒らせてしまったとかそんな感じで誤魔化したんだろうなと考え、少し笑う。ご名答である。
「おー。蒐ちゃん! 機嫌直してくれたんか?」
流架が窓からブンブンと手を振ってくるのを見て、一瞬で不機嫌そうな表情を作り「ちゃん付けするなと言っている……この馬鹿め」と言う。流架は苦笑いを浮かべ「蒐ちゃんきっつー! 馬鹿は酷いで。俺のガラスのハートが粉々になるやないか」と言う。
そこで蒐は「何がガラスのハートじゃ。鋼鉄のハートの間違いじゃろ?」と言い、馬鹿にするような笑みを浮かべる。そこで葵が出てきて「早く入らないと風邪ひきますわよ」と言って手招きをする。
「ああ。分かっておる」
そう言って頷いて、家の中に入る。中に入れば紅零が「お疲れ様……気が晴れないのでしたらどうぞ主人に一発」と言って蒐にタオルを渡す。蒐は苦笑いを浮かべ、濡れた髪を拭く。葵はクスクスと笑って「それでも仲は良いのですわね」と言う。
「まぁ、幼い頃から一緒じゃからな。そうだ來斗はどうしておる?」
蒐が問いかければ「さっき目を覚まして今は本を読んでいますわ」と言う。紅零は「心配そうに、覗き込んでいた主人を見て、真っ先に悲鳴をあげていた」と言う。葵は苦笑いを浮かべ、蒐は「まぁ目が覚めて、あいつの顔が目の前にあったら、叫びたくもなるよのう」と言って笑う。
「蒐ちゃーん! こっちきいや!」
蒐がリビングに入るなり蒐の手を引っ張り、端の方へとつれていく流架。葵はそんな様子を不思議そうに見つめ、來斗は興味なさげに読書を続ける。流架はまるで逃がさないとでも言うかのように、強く蒐の手を掴んでいる。流架の爪が腕に食い込み、蒐は顔をしかめ、流架の手を払おうとしていた。静かに「どうやった?」と問いかける流架に蒐は「すまぬ。実を言うと何を見たのか覚えてないのじゃ」と答え、苦笑いを浮かべる。
顔をしかめ「嘘はあかんよ。蒐ちゃん」と言う流架を見て、静かな声で「威しか? ……お前は人のことを考えておらぬだろう?」と言う。流架はそんな蒐の言葉を聞いて驚いたように蒐の顔を見つめる。そんなこと気にせずに「……分からぬよなぁ? 人の過去を見ることで、自分の胸を深く抉られたことなど無いじゃろう? 過去を思い出すことなんか無いじゃろうなぁ!?」と言葉を続け、自分の腕を掴んでいた流架の手を振り払う。
「しゅ……うちゃん? 急にどないしたん?」
流架はそう言葉を紡ぐのがやっとな様子。そんな流架に冷たい視線を送り「分からぬか? だから大切な者を失うのじゃないか。まぁ我には関係ないがのう!?」そう言って流架を思いっきり蹴飛ばす蒐。流架は突然怒り出した蒐に驚いて目を見開くだけだ。來斗はため息をつきながらも読書をし、葵は黙って流架と蒐を見つめることしか出来ない。涙が蒐の頬を伝うのを見てハッとしたような顔をして、流架は蒐に手を伸ばす。
蒐は黙って流架の手を払い除け「気分が悪い。帰る」と言って、すたすたと歩いていく。動揺する葵と何もかも分かっていたような顔をする來斗。葵はそんな來斗を見て「どうして平然としていられますのよ!?」と言う。來斗はそんな葵に「止めても無駄と判断したのみです」と言い読書を続ける。
「でも、追いかけないと……」
そう言う葵に來斗は冷たい声で「追いかけたところで何も変わりませんよ。今は放っておくべきです」と言う。そんな來斗の言葉を聞いた葵は「なんかライちゃん冷たくなりましたわね」と言って、悲しそうな顔をする。
本から顔をあげ「冷たくなったと言うより、利口になったと言ってほしいですね。所詮は他人ですよ? 手を出した所で利益は無い」と言う來斗の頬を思いっきり叩く葵。來斗は驚いたように目を見開き、葵を見つめる。
「利益がどうとかじゃないですわよ。普通、人が喧嘩をしているのを見たら止めるでしょう?」
そういう葵を見れば暗い表情になり「優しいね。アオちゃんは」と言い本を閉じる。葵は悲しそうな顔で「本当にライちゃんは変わりましたわね。あの家族の事件があってから」と言う。
一瞬思い出すのも嫌だという様な顔をしてから「人は変わるものですよ」と言ってその場を去っていく。その背中がどこか辛そうで、葵は自分の言ってしまったことに後悔するのだった。