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Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.15 )
日時: 2011/03/29 19:37
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十三話〜レジェンド〜

 「……良い感じに反発してますね。能力の覚醒も早そうだ」
 そういう流斗が持っているのは淡い水色の光を放つ水晶だ。杖についていた水色の玉がなくなっているから、おそらくこの水晶も杖の一部なのだろう。黒奈は「とりあえず、時渡りに証を与えに行こうよぉ。めんどくさいしぃ」と言って流斗の顔を覗き込む。
 「……駄目ですよ。まだ正式な審判は下していません」
 流斗の言葉を聞き、ため息をついて「流斗は真面目だねぇ」と言って黒奈は手をフワフワと動かす。流斗はそんな黒奈を見て呆れたような顔をして「黒奈が不真面目なだけです」と言い、水晶を杖に近づければ、まるで磁石のように杖に水晶がくっついた。
 「さてと……エージェントとやらも動き出したようです。僕たちもゆっくりとはしていられませんよ」
 黒奈はそう言って歩き出す流斗の後を慌てて追う。流斗は歩きながらパラパラと手帳をめくり、見つかった蒐の名前を指差して「……この子にレジェンドの資格があるか確かめにいきましょうか」と言う。
 トンッと地面を蹴って、垂直に飛び上がり黙って目を閉じる流斗。優しい風が流斗の髪を揺らし、辺りを包む。それを見れば流斗が普通の人間ではないことは明らかだった。しかしサクリファイスは目印として六芳星がデザインされたものを身につけなくてはならないが、流斗にはそれが無い。と言うことはサクリファイスではないということは確かだ。
 「……久しぶりだから力が安定しませんね」
 流斗はそう言いながら地上に降りてきて、蒐の居場所を黒奈に伝える。黒奈は苦笑いしながら「何十年ぶりでそこまで安定してれば凄いと思うけどねぇ」と言い、手で空を裂く。そうすれば黒い亀裂が黒奈の前に現れ、二人を誘うかのように亀裂の周りが歪み、揺れる。
 「……これ結構キツイですよね」
 そう言えば黒奈の手を引いて亀裂の中に進んでいく流斗。電撃が走るような音の後二人の姿が闇に溶けて、消えていった。

 そんな頃、蒐は家への道を急いでいた。雨は酷くなり雷まで落ちる始末。唯一の救いは雨で涙が隠せると言うことだけだった。小さく力の無い声で「あいつなら分かってくれていると思った我が馬鹿じゃったな……」と呟き、きつく自分の胸元を握り締める。
 フーガはどう声をかければ良いか分からずに蒐の周りを飛ぶことしか出来ない。そんなフーガを見て蒐は止まらない涙を無視して、疲れたような、全てを諦めたような笑みを浮かべ「心配掛けてすまぬな。もう……平気じゃよ」と言う。
 それでも心の中では、もう疲れたとか、ここで消えてしまえたらどれだけ楽なのだろうとか、そんな言葉ばかりが浮かぶ。そんな蒐を凄い勢いで光が包み込む。
 「何じゃ……。この光……」
 蒐はそう言って反射的に目を覆う。まるで流斗と黒奈が現れる前に石が放った光のようだった。光が徐々に収まっていけば二人の人影が見えてくる。黒奈と流斗だった。
 「……おや? 先ほどの……」
 蒐を見れば、流斗は驚いたように言い、蒐の顔を黙って見つめる。そしてしばらくの沈黙の後に「さて、貴方にレジェンドの資格があるか、確かめるために今から三つの質問をします。思ったことをそのまま答えてください」と言う。
 不思議そうに「レジェンドとは何じゃ?」と問いかける蒐に、流斗は驚いたような顔をしながら「まずそこから説明しなければなりませんか……」と呟く。黒奈はその横で「あっははー。今回の時渡りは無知だぁ」と笑う。

 ゆっくりとレジェンドについて話してゆく流斗。蒐は黙って流斗の話をメモしてゆく。流斗の話をまとめれば、レジェンドとはその能力のトップに立つ者たちの事を言うらしい。
 レジェンドはマテリアルと言う、おおよその能力の基盤となる力を持った、十二人の中から選ばれ、レジェンドストーンと言う力を制御するための石をあたえられるとのことだった。
 蒐は手帳を閉じ「なるほど……で我は、時渡りのマテリアルであり、二人のレジェンド候補の一人なのじゃな」と呟くのだった。