ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.17 )
- 日時: 2011/03/29 19:39
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)
第十五話〜加速する運命〜
紅零は流架に言われても絶対に逃げようとしない。桜梨が不敵に笑い「失敗作のサクリファイスはトリプルS……。主人の身の安全を最優先にするように出来てるから逃げないよ」と言う。それを聞いた流架はグッと唇を噛み、そのまま桜梨の脚を払うように自分の足を動かす。
「おっと。危ないな」
桜梨は脚を払われ一度は倒れそうになるが、とっさに手をついてバク転のような感じで体勢を立て直す。とっさに体勢を立て直した桜梨をみて思わず拍手をしてしまう紅零。
「無駄なことを」
そう言って鼻で笑う桜梨。紅零が素早く流架を庇うように前に出てくる。流架はまるで計画通りと言うかのような桜梨の笑みを見て背筋に悪寒が走るのを感じ、とっさに紅零の手を引いて走り出す。こいつには勝てないと感じての行動だった。
「おや。失敗作でも僕に勝てないことは分かるようだ」
必死に走る流架を見れば「でも無駄。時はもう回り始めている。異常な速さでな」と言って、桜梨は流架の前に瞬間移動する。目を見開き後ろに引き下がる流架。紅零は黙って流架の手を振り払い、桜梨の前に立つ。
「主人……僕を信じて。信じてくれるなら僕は絶対に勝つ」
その瞳は真っ直ぐ桜梨を捉えていて、強い意志が感じて取れた。桜梨はそんな紅零を見て不愉快そうな顔をして「無理だ。僕には勝てないよ」と言う。
気づけば紅零の手の上には淡い青の光。桜梨は呆れたような顔をして「だから、勝てないって言ってるのに」と笑う。それでも紅零は「やってみないと分からない。やる前に諦めたりはしない」と言って光を宙に投げ、それを手で叩く。
光が鋭い矢のように姿を変え、桜梨に向かって飛ぶ。それでも桜梨は焦りもせずに、ただただ光の矢を見つめている。紅零は不思議そうな顔をしながらも気は緩めないでいた。桜梨が避けようともせずに何をしようとしているのかが分からなかったからである。
「羽の守り(フェザー・ガード)」
桜梨が静かな声で呟けば、どこからか羽のようなものが集まってきて光の刃を全て弾く。全てを防いだ所で「羽の守りは戦闘プログラムを作動しなくても使える弱小防御だ。そんなのも破れずにどうやって僕に勝つんだろうな?」と言って、馬鹿にするような、哀れむような目で紅零を見る。
「さて……遊びもここまでだ。黙ってついてきてもらう」
桜梨は無表情で桜梨はそう言って紅零に近づく。紅零が張ったシールドや技は全て片手で消していた。紅零は少しずつ追い詰められてゆく。流架が自分の方へと走って来たのに気づきながらも大して害は無いと判断し、桜梨は流架を完全に無視する。
流架の手にはナイフが握られていて、それを桜梨の背中に突き刺して抜く。桜梨は体に走った激痛に耐えられず、地面に膝をついて流架を睨みつける。その背中からはドロドロとした赤い液体が流れ落ちている。
そんな桜梨を見て、流架は少し辛そうな顔をした後に、紅零の手を掴み走り出す。痛みに顔を歪めながら「逃がすかよ!! 梨兎様に頼まれた仕事なんだから……。高速……再生!!」と桜梨は叫ぶ。
ありえないスピードで流れていた赤い液体は消え、桜梨が立ち上がる。それを見て流架は「絶対チートやろ。あいつ」と呟く。
傷が塞がったことを確認し、凄いスピードで紅零を捕まえ、流架を吹き飛ばす桜梨。抵抗する紅零を見て、不愉快だと言うような顔をしてそっと、紅零の額に手を当てる。
微弱な光が走ったかと思えば紅零の体の力が完全に抜ける。流架はそんな紅零を見て「お前……紅零に何をした!?」と叫ぶ。そんな流架に、低く呪うような声で「五月蝿いなぁ? お前には関係ないだろう?」と桜梨は言う。
「関係なくなんかないやろ!? 紅零は……」
流架が言い終わらない内に桜梨は鬱陶しそうな顔をし「はいはい。僕は忙しいから帰りますよ。せいぜい加速する時に引きずられないようにな」とだけ言い残し紅零と共に姿を消すのだった。