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Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.18 )
日時: 2011/03/29 19:39
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十六話〜二人の傀儡使いの出会い〜

 すたすたと歩きながらメモをめくる流斗。本来はここまで急がなくてもよいのだが、この世界で何が起こったかは把握しているために焦りがあった。紅零がさらわれた事も既に把握していて、更に言えばエージェントの一人、エリカに狙われていると言うことも分かっている。
 「ああ……。このタイミングで傀儡使い(クグツツカイ)が出会ってしまわないように願いたい……」
 そう呟いた流斗を見て黒奈は「でも、そっちの方が審判下すの楽だよぉ?」と言う。流斗は疲れたような表情を浮かべ、黒奈の言葉に「……その場合一番最悪な方法で、レジェンドの資格があるかを調べなくてはなりません」と返す。
 黒奈は納得したように頷いて流斗をつつく。歩きながらメモをめくっていた流斗の手が止まる。そこに書かれていた流架とエリカの二つの名が淡い水色の光を放っている。
 「嘘……手遅れ……?」
 流斗はそう呟いて驚いたような、悲しそうな表情を浮べる。黒奈は小さな声で「こりゃぁ、最悪な方法での確かめだねぇ」と言い、かすかに震える流斗の肩に手を置く。その数秒後に鋭い光が二人を飲み込んだ。

 そんな頃、流架は一人呆然と紅零が立っていた場所を見つめていた。その背後から忍び寄るはエリカだ。口元には怪しい笑みを浮べていて、そっとアリサを地面に置く。
 「さぁアリサ。エリカがレジェンドになるためにあいつを倒すのにゃ」
 アリサ……長い金髪をツインテールにしている緑の瞳の少女の人形がゆっくりと立ち上がり、不思議な光が中に消えれば一瞬にしてエリカと同じくらいの大きさになる。
 それとほぼ同時に流斗と黒奈が流架とエリカの間に現れる。突然現れた流斗と黒奈を見つめ「その杖……ジャッジメントだにゃ?」と問いかけるエリカ。
 「その通り……。負のジャッジメント、流斗で御座います」
 流斗はわざとらしく頭を下げて言い、黒奈は腕組みをして「正のジャッジメント、黒奈で御座いまーす」と面倒だと言うような顔で言う。エリカはどこか不気味な笑みを浮かべ「アリサ、標的変更だにゃ。標的は負のジャッジメント」と流斗を指差して言う。
 何処かから剣が現れアリサの手に握られる。鈍く光るその剣を見た瞬間、流斗が黙って手を振り上げる。アリサの手に剣が握られて数秒してから、まぶしい光が走り、剣がぐにゃりと曲がった。流架は慌てて振り返り、そしてエリカ、流斗、黒奈の三人を見つめる。
 無言で流架の顔を見た後ため息をつき「我、負のジャッジメント流斗。今我が名の元に、エリカ、流架のレジェンドの資格を確認する」と呟く。その瞬間辺りが暗くなり、ぼんやりと流架たちの姿が浮かび上がる。
 「俺がレジェンド候補かぁ……もう力は使わんって決めてたんやけど……しゃーないなぁ」
 流架がそう言えば黒奈が「時渡りとは違って自分の立場を理解してるみたいだねぇ」と言ってケラケラと笑う。流架は無言で黒奈のほうを見た後不敵な笑みを浮かべる。
 「はん! 人形も無いくせしてエリカに勝てるわけが無いのにゃ」
 そう言って勝ち誇った様な笑みを浮かべるエリカに哀れむような表情を向け「操る人形が無いのなら、代わりを用意すればええだけや」と言ってポケットから小さな猫のキーホルダーを取り出す。
 「人間の形には劣るが……それでも俺には勝てんよ」
 パチンと指を鳴らしキーホルダーを投げる流架。一瞬のうちにキーホルダーが本物の猫に姿を変える。ありえないというような顔をするエリカと、ただただ無表情で二人を見つめる流斗。
 「ルールは簡単だよぉ。どちらかの操っているものを壊す、もしくは戦えない状態にするだけぇ」
 黒奈がケラケラと笑いながら言えば、流架は不快そうな顔をし、一度目を閉じるのだった。