ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.19 )
- 日時: 2011/03/29 19:41
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)
第十七話〜強さと意志と〜
誰も動かないまま時が過ぎていく。流架は相手の動きを探っているようだったし、エリカは自分から攻撃するのを躊躇っていた。黒奈はそんな二人を見つめて興ざめだと言う様な顔をするだけだったし、流斗は手帳をしまった後、二人を見ることさえしなかった。
「ああ、そうや。他のレジェンドとレジェンド候補ってどんなんがいるん?」
思い出したように流斗に問いかける流架。それを見ればエリカがニヤリと笑いアリサに指示を出す。流斗は面倒だと言うような顔をして、メモをめくり十二の名前が書かれたページを開く。そこには流架とエリカの名前もあった。
「絶対のレジェンド、天乃 桜梨(アマノ オウリ)。時渡りのレジェンド、天魔 蒐。無効化のレジェンド候補、竜宮 葵、リーシャ。創作のレジェンド候補、紅蓮 來斗……」
静かにメモに書かれている名前を読み上げていく流斗。流架は驚いたような顔をし「ストップストップ。もうええよ。なんや、聞いたことのある名前が三つも出てきたで」と言って薄い笑みを浮かべる。エリカの「油断大敵だにゃ」と言う声と同時に、アリサが流架を剣で切り裂こうとするが、流架の出した猫によって防がれる。
「甘いでぇ? 餓鬼が粋がってんじゃねーよ!」
一瞬にして流架の顔から笑みが消え去り、強い意志の宿った瞳がエリカを捉える。
「俺の知り合いがレジェンドになってるんや。負けられんよ。蒐ちゃんもそうや……だけどもしかするとあいつらがレジェンドになるかもしれん」
静かに言う流架には普段のふざけた雰囲気はなく、殺気とも言えるような強い意志を感じることが出来た。エリカが馬鹿にするように「はん。だからどうしたと言うのにゃ!? 所詮力など自分のために使うものだにゃ!! 人に気に入られるため、人に捨てられないため」と笑いながら言う。
流架は狂ったように笑い、右目を隠していた前髪を上げる。現れたのは輝きを失った血のように紅い瞳。その目を見て思わず息を呑むエリカと流斗。その後、流斗はどこか悲しそうな顔で流架の表情を見て、そのまま遠くを見るようなそんな目をする。
「今はもう使いもんにならん。力が完全に覚醒したときやから十年ほど前やな。お前に分かるんか? 力があるが故に気味悪がられ、捨てられる気持ちが。まるで汚物を見るような目で見られる気持ちが!!」
叫ぶように言った後深く息を吸い込み、再び右目を隠す流架。エリカはすっかり怯えてしまって声も出せないようだった。そんなエリカを見てフッと笑い「だから俺はそんな思いをあいつらにはして欲しくない。せやからレジェンドになってあいつらを守るんや」と言う。
長い沈黙の後、流架が猫に指示を出す。流斗は遠くを見るような目をしたまま動かないし、黒奈もどこか暗い表情をしている。エリカは猫が走り出したのを見てからハッとしたようにアリサに指示を出す。
アリサが動き出すより早く猫がアリサに飛び掛り剣を弾き飛ばす。流架は「相変わらず猫とは思えん力やねぇ」とケラケラ笑いながら言い、そのままアリサに近づいて額の辺りに手を当てる。エリカが慌てて「アリサ! そいつから離れるのにゃ!」と叫ぶ。
「もう遅いで」
中から光が抜けて、元の人形へと戻るアリサ。エリカは「迂闊だったにゃ。普段へらへらしてるからそんなことできるわけ無いと思ってたのににゃ」と呟く。それを聞き流架は少々引きつった笑みを浮かべ「普段って……ストーカーかいな」と言う。
「んだとー! 誰が好き好んでお前なんかストーカーするか!! 桜梨ちゃんがそうしておいた方が後々らくだと言ったからしょうがなくだにゃ」
そんな二人の会話を聞いて面白そうに笑う黒奈と、苦笑いを浮かべ「……決着がつきましたね」と言う流斗。エリカは諦めたようにため息をついて「まぁいいにゃ。今回は大人しく負けを認めるにゃ」と言って姿を消す。
「我、負のジャッジメント流斗なり。我が名の元に月城 流架にレジェンドの資格が有ると判断をし、最終決定を正のジャッジメントに求める」
静かで凛とした声で言う流斗。黒奈はいつものような笑顔で「我、正のジャッジメント黒菜ぁ。負のジャッジメントの求めに答え、最終判断を下すぅ。我が名の元に月城 流架にレジェンドの資格があると認め、証を授けるぅ」と言う。
ああ、やっぱり黒奈は黒奈だと考えながら、流架の手の上に黒い石を落とし「君は本当に強いよ……その強さの元を知りたいね……」と言ってそっと流架の頭を撫でる。
少し驚いたような顔をし「意志だと言っとくで」と言う流架。それを聞いた流斗はクスリと笑い「……そうですか。僕にもあなたのような強さが有ったら……間違いは起さなかったのでしょうね」と言う。
流架が言葉を紡ぎ出そうとした瞬間に流斗と黒奈を光が包み込み、跡形もなく姿を消していった。