ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.20 )
日時: 2011/03/29 19:43
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十八話〜無力とレジェンド〜

 葵は困ったような表情で土砂降りの中飛び出した蒐を追いかけて、飛び出した流架を追いかけていた。先に飛び出した二人と違うのはしっかりと傘を飛び出した二人の分と自分の分、持っていることである。リーフィルが呆れたような顔で葵の周りを飛び回る。
 「主様。何故紅蓮家の坊ちゃんじゃない駄目男達を追いかけねばならぬのですか?」
 リーフィルの言葉を聞き思わず噴出して「んー何と言うか放っておけないのですわ」と言う葵。リーフィルはクスクスと笑い「紅蓮家の坊ちゃんは放置ですけどね」と言う。
 しばらく歩いた所で少し向こうの方に流架の後姿を見つけ、葵は安心したように息を吐く。リーフィルはつまらなそうな顔をしているがそこは無視。
 「まったく。土砂降りの中傘もささずに何してるんですの?」
 そう言って持ってきた傘の一つを渡す葵。流架はゆっくり振り返り、驚いたような顔で「なんや追いかけてきてくれたん?」と言い傘を受け取る。葵は苦笑いを浮かべ「こんな雨ですもの。傘を差さずにいたら風引いてしまいますわよ」と言って静かに笑いかける。
 「そんなこともわからないか駄目男。主様に感謝するといいです」
 リーフィルの言葉に苦笑いを浮かべることしか出来ない葵と「なんや酷い毒舌やなぁ。リーフィルは」と引きつった笑みを浮かべる流架。心なしかリーフィルが流架を見る目が冷たい。それほど葵を慕っていると言うことであろう。

 「ん……主様、駄目男様、伏せてください!」
 リーフィルの言葉の後、葵は訳の分からないまま流架に掴まれて伏せる。リーフィルが目を閉じた後に無数の刃が飛んでくる。刃が飛んできた方には流斗と黒奈がいるからおそらくはこの二人が刃を飛ばしたのだろう。
 「確かめの時間か。俺は手出しできんから一人で頑張るんやな」
 流架に言われて訳が分からないというような顔をする葵。リーフィルが静かに閉じていた目を開いて「分析完了。超能力と判定。能力値測定不能、よって防げないと判断し、主様を逃がすことを最優先します」と呟く。流架は真面目な表情で「葵、お前親とかに何か言われとらんか? 力とか、レジェンドとか」と葵に問いかける。
 「レジェンド……? ああ言われましたわね。其の力を持つ者の中で最も優れた者のことだとか。で私がそれの候補だとかなんだとか」
 葵が答えた後すぐに「なら頑張るんやな。すぐ終わるから」と言ってフッと笑う流架。葵はすっかり慌てたように「ちょちょ……ちょっと待ってくださいまし!! 私には何の力も無いのでありますわよ!?」と半ば叫ぶように言う。
 流架はもう何も言わずに伏せているだけで、リーフィルはいつの間にか鳥籠の中。必死に出ようとしているがどうやら無理なようだった。ため息をついてどうすれば良いのかを考え始める葵。
 しばらくの沈黙の後小さな声で「私みたいな無力な人間がレジェンドになれるわけありませんわよ」と呟く。それを聞いた流架は無言で首を横に振る。でもそれだけで励ましたり、ヒントを与えたりは絶対にしなかった。
 「やはり、まだ覚醒はしていませんか……」
 遠くから刃を飛ばしながら呟く流斗。黒奈が「まぁ覚醒したばっかりのときは力が弱いから、その時でどれ位やれるかだねぇ」と言ってケラケラと笑う。流斗は笑い事じゃないと言うように黒奈の頭を叩き「覚醒する前に死なないと良いのですが……」と言う。
 すっかり混乱してしまっている葵と必死に鳥籠から出ようとするリーフィル。どうやら鳥籠の中では力が使えないようだった。
 無言で起き上がった流架の手に運悪く突き刺さる刃。流斗が目を見開いて「ヤバ……傀儡使いがいきなり立ち上がるから……刺さっちゃった」と呟く。黒奈がヘラヘラしながら「まぁ良いんじゃないかなぁ? もしかするときっかけになるかもよぉ」と言うと同時に葵の周りに凄まじい風が吹くのだった。