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Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.21 )
日時: 2011/03/29 19:43
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十九話〜無力の最強〜

 葵の周りを吹く風がどんどん強くなっていくのを感じ、サッと杖を構え黒奈の脚を払い伏せさせる流斗。流架はとっさに葵から距離をおく。葵は「今ここに発動されている能力を全て不要と判断し無効化しますわ」と呟くように言った後、流斗達がいる方向を指差す。
 勢い良く葵の手元から風が放たれリーフィルが閉じ込められている鳥籠を最初から無かったかのように消し去り、飛ばされていた刃と流架の腕に突き刺さった刃も同じように一瞬にして消える。
 「覚醒したばっかりだっちゅーのに豪い力やな」
 流架は先ほどまで刃が突き刺さっていた腕を動かしながら、驚いたような顔で呟く。黒奈は伏せながら心配そうに杖で葵の力を防ぐ流斗を見つめている。
 「ったく……流石と言いたいところですが……この程度の能力者、過去に何人もいましたよ」
 流斗がそう呟き、杖を半ば強引に振ると同時に消されたはずの刃が再び現れて宙を舞う。流架は退屈そうな顔をしながらも、刃が刺さらないように動き回っていた。
 葵はすっかり不快だというような表情をし「なるほど……お婆様の真似をしてみましたが……これが私の力ですのね」と流斗達がいる方向を睨みつけながら言う。
 「っ!?」
 突然、葵の回りから鎖が流斗に向かって伸び、一瞬にして流斗の目の前に迫る。いきなりの出来事に対応できずに囚われる流斗。葵と流架は驚いたような顔をして硬直する。
 「おいおい、ありえへんて。何やねんあの鎖」
 そう呟く流架に葵は半ば怒鳴るように「知りませんわよ! 私が聞きたいですわ!!」と言う。流斗は無言で自分を縛り付ける鎖を見つめ「なるほど……サクリファイスの力を鎖に変えたものですか」と呟く。
 「ありゃー。気付くのはえーぜ」
 葵の後方3キロメートルほどの所に立っている、肩より少し上ぐらいまでの茶髪に、赤い瞳の少年が呟く。服は真っ黒で膝位までの長さのコートのようなものとジーパンで胸の辺りには六芳星のバッチがつけられている。少々たれ目気味で幼いようなそんな印象を受けた。名を翔炎ショウエンと言う。
 「……この程度簡単に壊せます」
 流斗が呟くと同時に粉々に砕ける鎖。一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに面白そうで楽しむような表情に変え「わお、予想外だぜ」と呟く翔炎。

 「何だか良く分かりませんけど……今ここに発動されている能力全てを不要と判断し、無効化しますわ」
 宙を舞う刃の存在を思い出したように言う葵。一瞬のうちに刃が消滅にし、しばらくの静寂が訪れる。翔炎がトンッと地面を蹴って垂直に飛び上がり「あははーレジェンド試験の邪魔しちったみたいだぜ」と笑いながら呟く。
 「まったく……とんだ邪魔が入りました。まぁ合格と言うことで良いでしょう。覚醒したばかりであそこまで使いこなせれば十分です」
 ため息混じりに呟く流斗に向かって「もう一人の方はずっとおどおどしてるだけだったしねぇ」と笑いながら言う黒奈。ゆっくり起き上がって服の汚れを払っている。
 スッと葵の前に姿を現し「……初めまして。負のジャッジメント流斗です」と軽く頭を下げながら言う。キョトンとした表情の葵を見てクスクスと笑い「正のジャッジメント黒奈ですぅ!」と言う黒奈。
 「……今の試験の結果により、貴方にレジェンドの資格があると判断し、証を授けます」
 静かに葵の手に透明な石を握らせる流斗。透明な石を見て「奇麗ですわね……」と呟く葵。流斗はそれを見て薄い笑みを浮かべ「その石は出来るだけ持っていてください。力を制御するためのものです」と言う。
 「そんでぇ、これあーげるぅ。これを使えば1度だけアタシ達に命令することが出来るよぉ」
 黒奈がニコニコしながら紅い液体の入ったビンを葵に差し出せば、少々躊躇った後ビンを受け取り「有難う御座いますわ」と言う葵。
 「それで……私みたいな無力なのがレジェンドでいいんですの? 無効化するだけですし……」
 流斗は不安そうな顔をする葵の頭を優しくなで「……貴方だからレジェンドになれるのです。どうぞ自分の力に自信を持ってください。貴方は無力であり、最強でもあるのですよ」と静かに言う。
 その光景を見ていた翔炎は「また新たなレジェンド誕生ー。先輩に伝えねーとな」と呟き、姿を消すのだった。