ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.9 )
- 日時: 2010/03/13 22:35
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: x8gi1/u3)
第八話 〜時を見る者〜
葵たちは、急に雨が降り始めた為、空き地から一番近いところにある流架の家に居る。空き地から一番近いといっても三十分は歩かないといけないような距離だったりするのだが。來斗は雷の音を聞いた途端に、取り乱し意識を失ってしまっていた。
逆に紅零は桜梨が立ち去った後すぐに、意識を取り戻し、負けたことを悔やんでいる。意識を失った來斗を背負ってきたのは蒐である。葵は濡れた髪の毛を拭きながら心配そうに來斗を見つめる。
「服、着替えないと風邪引くで。紅零の服でも借りい。蒐ちゃんの服はこの前泊まったときのがあるからそれを着い」
流架はそう言って自分の部屋に入っていく。蒐は黙って流架が入っていった隣の部屋に入る。葵は手を引かれ紅零の部屋に。來斗が全然濡れていないのは紅零の力のおかげだったりする。何故それを全員に向けて使わなかったのかが疑問になるが。
嫌なものでも見ているのだろう。來斗は時々辛そうに顔を歪めている。着替えが終わり、部屋から出てくるなりそんな來斗を黙って見つめる流架。次に着替えが終わり出てきた蒐は、そんな流架を見て、からかおうとする。だがあまりにも流架が真面目な顔をしていたため、黙って流架の横に立つ。
「ああ。蒐ちゃんやないか。少しお願いしたいんやけどええか?」
流架は静かな声で蒐に言う。蒐は不思議そうな顔をし「何じゃ? 出来る範囲ならお願いされてやるが」と言う。流架は静かに頷いた後に「こいつの過去を見て来て欲しい」と言う。流架の言葉を聞き、蒐は呆れたような顔をして「つまりは時渡りの力を使って過去へ行けと……まったく人使いが荒いのう。それに何故そんなことをせねばならぬのじゃ?」と問いかける。
「いや……こいつなんか無理してるみたいやから。こいつは問い詰めても言わんだろうし」
蒐は深くため息をつき「何故知り合ったばかりの奴のことをそんなに気にかける……まぁ……お前らしくてよい」と言う。流架は静かな声で「頼めるんか?」と蒐に問いかけ、蒐は「ああ、頼まれてやろう。お前の頼みは断ったら後が怖いからのう」と答える。
「我、時を見る者なり。今、天魔蒐の名の元に時の門を開け……リロード」
小さな声で蒐が言えば、大きな門が蒐の目の前に現れ、かすかに光を放つ。流架は明るい笑顔を浮かべ「有難うな。頼りにしてるで」と言う。蒐は苦笑いを浮かべ「報酬は高くつくからのう?」と言いながら門を開き、その奥へと消えてゆく。
時渡りとは超能力のようなもののことで、名前から分かるように、時を渡る……つまりは過去や、未来に行くことの出来る力のことである。リロードで過去に行き、ロードで未来に行くことが出来る。
ただし、できるのは過去や未来に行って、状況を見ることだけである。決してそのさきで過去を変えたり、未来を変えたりすることは許されない。過去を変えればそれに合わせて、時渡りをした者が生きる“現在”も変わることになり、未来を変えれば、その未来になるようにありえないことが起きてしまうからである。
だから過去を変えることは絶対にできないし、未来を変えるためには、その未来にならないように時渡りとした者が生きる“現在”で頑張るしかないのだ。
「あら? 蒐さんはどちらに?」
着替えが終わり出てきた葵が不思議そうな顔で流架に問いかければ、流架は「少しからかったら、怒ってどっか行ってしもうた」と答え、ケラケラと笑う。
「あんな温厚そうな方を怒らせるって……一体何を言ったんですのよ?」
葵は不思議そうな、そして呆れたような顔で聞く。流架は少し慌てながらも「いやー、ちょっと老けてるとか、年のわりには考え方が古いって」と言い、舌を出す。苦笑いを浮かべ「まぁそんなこと言われれば、流石に怒りますわよね……」と言い流架を見る。
流架はどうにか誤魔化せたなとホッと胸を撫で下ろすのだった。