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Re: -妖狐と魔術の交差点- ( No.1 )
日時: 2010/01/06 16:56
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

序章 とある少女の逃走劇

 時刻は既に午前1時を過ぎている。人で賑わう街は深い闇へと沈んでいた。
 そんな街の中、逃げる者が一人、同じく追う者が一人。

「私は何時までも貴方を追い掛け回すほど暇ではありません、大人しく捕まる事をお勧めします」
「ぬしこそいい加減、わしを追い掛け回すのは止めにしたらどうじゃ、”双翼の闇”」
「私は依頼を遂行するまで。貴方のような愚かな獣を追い掛け回す事など不本意ですが、それが今回の私の仕事ですから」

 獣と呼ばれた栗色髪の少女は軽く舌打ちをすると、路地裏に回る。追いかける金髪の少女もまた路地裏へと回った。
 すると突然、地面から巨大な何本かの“何か”が突き抜けて金髪の少女を襲う。少女は黒服に隠し持っていた暗器で襲ってきた“何か”を切り裂く。
 ぼたりと地面に落ちたのは金毛の“尾”。何の動物の尾なのかは、少女には検討がついていた。いや、むしろ少女の立場からすれば検討がついていない方がおかしい。
 少女は巨大な尾を切り落としてすぐ、取り逃がした事に気づいて小さく溜め息をつく。

「逃げ足の速い妖怪です……捕まえる時は檻にでも入れた方が良いでしょうか」

 少女の感情のこもっていない翡翠の目が、逃げていった少女の跡を眺める。
 “妖怪”の少女は一度は逃げ切れたが、まだこれで終わりではなかった——始まってすらいない。

 “妖怪”——九尾の妖狐の本当の物語が、幕を開けようとしていた。