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Re: -妖狐と魔術の交差点- ( No.3 )
日時: 2010/01/07 21:11
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

交差点02

「最初に名乗っておくと、わしは詩世(しぜ)というのだぞ。宜しくな、少年」
「詩世? フルネームで名乗れフルネームで。ていうか“少年”って明らかに俺よりお前の方が年下だろ! 何歳だお前!」
「大体だが800歳じゃ」
「800歳ってどこの電波だお前は!」
「電波? わしの専門は主に炎じゃが」

 詩世と名乗る古めかしい言葉使いの幼女は“電波”などライトノベルに出てくるような用語は知らないらしい。そして更に言うと自分の年齢を800歳という頭のネジが数本外れた娘らしい。
 お前は何星人なんだ、とテーブルに向かい合わせで正座する娘に問いたい。
 だがいちいちこのヘンテコ幼女に突っ込んでいたら話が進まない。手っ取り早く事情を聞いてお引取り願おうと、神崎は食べ物の恨みをはらそうとする。

「で、何故にお前は俺の家の冷蔵庫を荒らしていた? 何故にお前は俺の家に忍び込めた?」
「腹ごしらいをしようと思ったらぬしの家が丁度目の前にあったのじゃ。家に関しては窓の鍵が開いていた故、そこから入り込んだがそれがどうかしたか?」
「ってそれ泥棒と同じじゃねーか!」
「? わしは盗人のような真似はしておらんぞ? 現に何も盗んでいない」
「盗んだだろ! お前の腹の中に俺の大事な食料があるだろーが!」

 声を荒げて詩世の言動に突っ込む神崎。そしてハッとする、詩世のぺースに乗せられてしまったと。
 神埼は一度大きく深呼吸をして、自分を落ち着かせる。そして改めて詩世に問う。

「改めて聞くが、お前は何でこの家に居る? 匿うって何でだ?」
「ああ、それはじゃな」

 詩世は冷静に告げる。

「追われているんじゃ、とある殺し屋に」

 神埼は答えを聞いた瞬間、こいつは何を言っているんだと、間抜けのようにぽかんと口を開ける。
 一方の詩世は、特に自分の言っている事を気にしている様子は無い。神崎の答えを待つように正座したまま黙っている。
 当の神埼は“殺し屋”という言葉にまったく現実味が湧いていなかった。映画や漫画などでは馴染み深い言葉かもしれないが、いざ現実で“殺し屋”などと言われても何と言えばいいのか。

「正確には“殺し屋”も兼ねている情報屋の魔術師じゃな」

 詩世は更に付け加える。補足としてなのだろうが、神崎にとっては余計に訳が分からなくなる。

「『魔術師』? ……お前の妄想の産物出さなくていいから、話がややこしくなる」
「ぬし、馬鹿にしておるな。言っておくがわしは本当の事しか言っておらんぞ。因みに魔術師の魔法名は“双翼の闇”と言う」

 どこのオカルト宗教信仰者だと神埼は半ば呆れる。ファンタジー系のラノベも結構読んでいる神崎だが、魔術師だの何だのを本当に信じているわけではない。むしろどちらかといえば現実主義者だ。ファンタジーはあくまで小説の一ジャンルとしか捉えていない。
 詩世は“魔術”を当然のように言う。キリスト教の信仰者が、キリストが神な事を当然だと言うように。
 先程まで「追われている」という事を仮に信じていた神崎だが、詩世から出た言葉で全て打ち壊された気がする。

「はいはいふざけるのもいい加減にしろ。……聞いておくけど、何でお前は追われているんだよ?」
「ああ、それはな」

 只一言、詩世は言った。

「わしが妖怪だからじゃ」