ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 呪われた瞳と愉快な魔女達 ( No.17 )
日時: 2010/01/07 23:27
名前: 白魔女 (ID: GEbzXJEw)

四話——夜の森の悲劇


 あっという間に夜になり、太陽の変わりに月が昇る。とは言え、まだ曇りなので、月さえも見れなかった。

「そろそろ夕食にするか……」

 縫い物をしていたアリスは、すくっと立ち上がった。

「クロス、夕食何がいいー?」

「カレーがいいー」

 猫の言うセリフかよ、なんて思いつつ、カレーの具材を探そうとするが、見当たらなかった。気がつけば食料がない。

「悪い、クロス。ちょっと買出しに行って来るわ」

「今からか?雨降りそうだぞ」

「……じゃあ、夕食いらないのね」

「……いってらっしゃい!」

 はぁ、とアリスは小さなため息をついた。傘を持ってこうか迷ったが、面倒くさくなり、そのまま家を出る。

 クロスの言ったとおり、外は雨が降りそうだった。朝よりも雲はどんよりとして、アリスは急ぎ足で村へ向かう。

 村では、家の明かりがつき、人通りが少なかった。レンガ造りの家を縫うように歩き、店に向かう。

 時折、歩いていた人に挨拶されるが、適当にかえして、すぐに店に向かった。雨が降る前に帰りたいからだろうが、それにしては焦りすぎている。

 食料を買うと、また足早に家に戻った。手にランプを持って、暗い森と通る。

 森はいつになく不気味だった。早く帰ろう、と思っていたときに、ポツリポツリと雨が降り出した。

「やだ、降って来た……」

 遠くで、ゴロゴロと雷の音がする。こりゃあ、嵐になりそうだ……と思い、駆け足で森を抜けようとしたときだ。茂みの中で物音がした。

「キャッ……」

 これはアリスの悲鳴でなく、茂みの中から聞こえた。女の子の悲鳴だ。

 早く家に帰りたいと思う気持ちと、なんなんだろうと思う気持ちとがぶつかる。が結局好奇心の圧勝だった。

 静かに、物音の場所へ寄る。

「けっ、こんなガキが金持ってるわけねぇじゃねぇか。なんで捕まえた」

「だって、兄貴。コイツずっと森を歩いてたから、怪しいと思って……」

 さらに奥で、むぐぐ、という声が聞こえた。

 そっと茂みを掻き分け、見てみる。案の定、今朝アリスの元へ弟子志願にきた少女がさるぐつわとされ、さらに手を縄で結ばれて捕まっていた。大柄な男二人がいる。

(あーあ。何やってんだ、あの小娘は)

 すると、向こう側の茂みから、背の高い女が出てきた。スタイルはいいし、顔もいい。結構モテるだろうが、その顔は冷酷そのものだった。

「お、お頭……っ」

 お頭と呼ばれた女は、少女を見るとキッと二人を睨んだ。

「なにやってんだい、このバカ共がっ!こんな小娘捕まえたって、金目の物なんかありゃしないだろう!昨日といい、一昨日といい、あんた達のドジのおかげで、軍の者があたしらを探してんだよ!?」

 朝に見た、あの新聞が脳裏を過ぎる。

(なるほどこいつ等があの盗賊か)

 軍の者が探しているなら、アリスも手が出せない。勝手に殺したりすれば、アリスが捕まってしまうのだ。それに、最初からあの少女を助ける気など、さらさらなかった。

 雨はより一層増して、地面に叩きつける。

(もう帰ろう……)

 アリスが方向転換して帰ろうとしたとき、男の一人が言った。

「だって、このガキ、赤い瞳をしてたから、売れるかなと思って……」

(紅い瞳……!!やっぱりあの娘、紅い瞳をしていたんだ)

「紅い瞳?」

 女は半信半疑で少女に近づき、乱暴に頭を引き寄せた。少女がうなる。

「ほ〜お、こりゃあ見事な紅い瞳だ。あたしも初めて見たが、噂で聞いたことがあるね。なんかの印だとか」

 女は目の色を変えて、少女にニコッと笑いかけて話した。

「でも、目、以外はいらないね。目、取っちゃおっか」

 途端に、少女は足をジタバタさせ、「んー!んー!」と鼻声で叫んだ。

 さすがにアリスもこれは見て見ぬふりは出来ない。軍がどうたらも言ってなどいられないし、紅い瞳の者ならばなおさらだ。

 勢いつけて茂みからでる。

「な、なんだ貴様は!?」

 飛び掛る男の一人に呪文を唱える。すると大きな体はいとも簡単に吹き飛ばされた。

「なに!?貴様魔女か!」

「それならどうしたって言うんだい?」

 残ったもう一人を片付けると、アリスは女の元へ近寄る。

 少女は嬉しそうに、その赤い瞳でアリスを見た。

「さあ、観念して、さっさとその子から離れな。魔女に勝てると思うのか?」

 アリスが言うと、女は高らかに笑った。
「魔女なんて、怖くともなんともないね!これさえあれば!」

 女はポケットから黒い石を取り出した。なんの変哲もない石だが、アリスには見覚えがあった。

「魔女じゃなくとも魔術を使える石……魔法石さ!つい昨日、旅人から盗んどいてよかったよ!」

 女はその魔法石を掲げた。石が光ったかと思うと、炎が飛び散る。雨が降っているとは言え、アリスの服に燃え移った炎は簡単には消えなかった。ようやく消し終わると、女から蹴りを食らう。

「うぅっ」

 しゃがみこんだアリスを見ると、女は少女に近寄り、瞳を覗き込む。

「さぁさ。早く来ないと、この子の目がなくなっちゃうよ〜?」

 ハッとしたアリスは立ち上がろうとするが、石がまた光り、体が動けなくなる。

「くっ……くそっ……」

「ふふふ……あっはははははっ!!」

 アリスの悔しそうな顔を見て、女は嬉しそうに笑う。そして少女のほうへ向き直り、さるぐつわを取った。

「ま、魔女さん……」

 少女は叫ぼうとしたが、女に口を抑えられた。

「さるぐつわを取ったのは、目を引きちぎられた時の悲鳴を聞くためさ……さぁ、今は黙りな!」

 女が少女の目に手をかける。さっと、少女の顔の血の気が失せた。

(くそっ、このままじゃあ、あの子がっ……)

 悔しそうなアリスを嘲笑うかのように、女は少女の目にクッと指を食い込ませた。

 少女の悲鳴が森を貫いた。と当時に雷の音が鳴る。それを聞いて、もう駄目だ——とアリスは目を閉じたが、少女の悲鳴は女の悲鳴に代わっていた。

「え……!?」

 見ると、少女の目にあったはずの女の右手は地面にむなしく転がっていた。女は驚きと恐怖で、少女の首を左手で掴んだ。

「小娘がぁ!!あたしに何をしたぁぁ!!」

 女は髪を振り乱しながら怒鳴ったが、少女自信も、何が起きたのかわからなかったらしい。しかしギリギリと首を絞める手首を少女が掴んだ途端、女が金切り声で叫び、手を離した。見れば、手が焦げたように真っ黒だ。

 そして、女が左手に持っていた魔法石が地面に転げ落ちた。その瞬間にアリスにかかっていた魔術がとけ、すぐさま少女に駆け寄る。

 少女は自分が何をしたのかもわからずに、苦痛に叫ぶ女を見てぞっとしていた。目は無事だ。アリスはほっとして縄と解く。

「大丈夫だから、あんたはここにいて。動いちゃ駄目よ」

 コクリと少女がうなずくのを見届けると、アリスは女へ向き直った。

「そこをどけぇっ!その小娘を殺させろぉ!!」

 アリスは無表情で女に近寄ると、手をかざした。手の平から、光の弾が発射され、女は肉片と骨だけになり、バラバラになる。

 その瞬間、少女は見てしまった。光の弾を出したとき、アリスの瞳が紅く光ったことを——。