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Re: 呪われた瞳と愉快な魔女達 ( No.20 )
日時: 2010/01/08 17:02
名前: 白魔女 (ID: GEbzXJEw)

五話——少女と紅い瞳の秘密



「ひっく……グス、グス……」

「わかったから、もう、泣かないでよ」

「うぅ……ひっく、ひっく」

 アリスは少女を家にいれ、傷を手当していた。首にはまだ、紫色のあざがある。

 その間、ずっと少女は泣いていたわけで、アリスはうんざりしていた。

(だから子供って苦手なんだよなぁ……)

「クロス……なんとかしてくれない?」

 アリスは小声でクロス助けを求めていた。クロスはボールで遊んだまま、無視する。

「今度、マグロの刺身、あげるから」

 ピクッと、クロスの耳が動く。アリスは頭の中でガッツポーズをした。

「仕方ねぇなぁ」

 クロスは猫らしく、小さくにゃあと泣きながら少女に近づいた。少女はぱぁっと顔を輝かせ、

「猫さんだ〜!」

 とはしゃぐ。そしてクロスを抱っこして、肉球をプニプニする。少女にはわからないだろうが、クロスがハッキリと嫌な顔をしているのを、アリスは見た。

(ふん……いい気味)

「それで……なんであのあと帰らなかったの?」

「だって帰る場所、ないから……」

 途端に、またしょんぼりする少女。

「ないって……、お母さんは?お父さんは?」

「いないよ」

「どうして?」

「死んじゃって……」

 アリスの質問に答えるたびに、少女の目には涙が溜まり、ついには大泣きし始めた。

「え、ええぇ〜……?」

 子供の扱いに慣れていないアリスもクロスも、おろおろ〜、っとし、何か少女をなだめうるものはないかと家中探したが、ぬいぐるみ一つなかった。変わりにカエルのホルマリン漬けを持ってきたアリスだが、クロスは無言でそれを止めた。

 そうこうするうちに少女は落ち着いてきた。だが、まだ安心は出来なかった。

「いいか、変な質問するなよ。なんか、明るい話をしろ。じゃなきゃ、また泣き出す」

 クロスに釘をさされ、うなずくアリスだが、アリスに任せたのがそもそもの間違いだった。

「なんでお母さんたち死んじゃったの?」

 アリスはニッコリしながら少女に聞いた。

(バカか、こいつ……)

 一抜けたといわんばかりに、クロスはその場から逃げ出す。

 想像通り、少女はまた泣き出したが、その質問に答えてくれた。

「悪い……魔女に、ヒック……殺されて……」

 その瞬間、アリスもクロスもハッとした。

「悪い……魔女?」

「うん……」

「それってどんな魔女?」

「紅い……魔女」

「……」

 紅い魔女。二人とも聞き覚えが会った。アリスとクロスは目を見合す。

「その時からだね、その瞳は」

「えっ……どうしてわかるの?」

「……」

 アリスは黙ったが、クロスが小声で、

「いい。言え」

 と言うのを聞いて、自分の青い片目に手をかざした。そしてその手を離すと、その深い青だった瞳は、輝かんばかりの紅の瞳になっていた。

「同じ……」

 ビックリして、少女は口をあんぐり開ける。

「そう。同じ。同じ“紅い瞳”だよ」

「どうして……さっきまで、青い瞳だったのに!」

「魔術で隠してたってところかな」

「じゃあ、なんであなたも紅い瞳をしているの?私も、元は黒だったのに……」

「同じ境遇だからね……」

「キョウ……グー?」

 少女にはまだわからなかったらしい。

「これはね、“呪いの印”なの。あんたのあたしも、そのあんたがいう悪い魔女に、呪われたんだよ」

「えぇーっ!」

 少女はそれを聞いて、不気味に思ったらしく自分の目を隠した。

「大丈夫だって。それは“呪いの印”でもあるけど、魔力が倍増する、特別な瞳でもあるんだから」

「え……?魔力が倍増……?」

「そ。あんた、元は魔女じゃないだろう?魔術なんて、使えないだろう?」

 コクリとうなずく少女。

「でも、あんたはあの盗賊の女に目を取られそうになったとき、そして首を絞められたときも魔術を使った」

「あれって……魔術だったの」

 それを聞いて、少女はあまり嬉しそうな顔をしなかった。女のあの悲鳴が、恐ろしかったのだろう。

「でも、魔術は他にいろんなことにも使えるし、いいものなんだよ。でも、使い方を間違えれば、とっても危ないことになる。わかる?」

 段々子供の扱いに慣れてゆくアリスを見て、クロスはククッと笑った。笑った理由は、それだけではないが。

「いいものなのに、危ないの……?」

「そう。例えば、包丁があるよね。包丁って、人を刺し殺したり、内臓を抉り取ったりできるけど、料理人が包丁を持ったら、おいしい料理が出来る」

 例えはいいが、言い方に問題がある。小さな子に「抉り取る」なんて言葉使ったいいのか、とクロスは少々不安になった。

「だから、使い方をしっかりすれば、魔術はいいものなの。使い方、あたしが教えてあげうるから」

「本当に!弟子にしてくれるの!?」

「まぁ、仕方ないしね。弟子って言うより、助手って方が……」

「やったぁーっ!魔女になれるーっ!」

 少女は聞いてはいなかった。嬉しさのあまり、家中走り回っている。

「……“紅い瞳”の説明。よくまあ、あんな良い風に言えたな」

 クロスは笑いを噛み堪えながら言った。

「……何が言いたい?」

 キッとした表情で、アリスはクロスを睨む。

「いや、ハッキリとその“紅い瞳”の意味を教えたほうがよかったんじゃないかって」

「そしたらあの子、また大泣きするだろ。運悪くば、自殺……」

「なくはないな。例があるし」

 ニヤニヤと、クロスはアリスを見上げる。

「まあ、いいだろう。しかし、なぜあの子を弟子なんかに」

「弟子って言うか……あの瞳じゃ、他に行く当てもないだろうし、また狙われないともかぎらない。そばに置いておくだけさ」

「ふうん。ずいぶん気前が良いんだな」

 アリスはしゃがんで、悠々と毛づくろいしているクロスを睨んだ。

「あんたねぇ〜、何よさっきから、皮肉ばっかり。なによ、何か文句あるの!」

「文句?大有りだね!あんな小娘いたら、俺がどれだけいじめられることやら……」

「ねーこさん!一緒にお祝いのパーティしよ!」

 言ってる間に少女に抱き上げられるクロス。

「や、やめっ、やめてくれっ!」

「可愛いー。猫さん、しゃべれるんだ〜!」

 しゃべる猫に、普通にリアクションする少女に、アリスは感心した。

「ねぇ。今まで聞かなかったけど、あんた、名前はなんて言うの?」

 アリスは少女に聞いた。少女はクロスをだっこしたまま、ニコッと笑って言った。

「ルリだよっ!」