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Re: 呪われた瞳と愉快な魔女達 ( No.32 )
日時: 2010/01/28 20:03
名前: 白魔女 (ID: tPOVEwcZ)



五話——魔女会議


 アリスは、集まった5人——メイサは近くにいるとして——をあいたテーブルに呼んだ。そして、セレサに頼みごとをする。

「ちょっと、セレサ。あの子に幻術見せて、少しあしらわせて」

「はいはーい」

 セレサはルリに妖術をかけた。ルリはボーっとし、見えないはずのおもちゃで遊びだす。これでルリはもうあっちの住人だ。

「さぁて。話すよ。この子——ルリって言うんだけどね。ルリについてなんだけど……」

「ルリちゃん、紅い瞳よね?」

 話し始めてすぐ、セレサがアリスに質問する。

「……そうだよ。紅い瞳」

 アリスが答えると、みんながえーっと騒ぎ出した。

「あんな小さな子がか?」

「そう。あたしも最初は信じらんなかったけどね」

 可哀相に、とセシルが呟く。次にリンがまた質問した。

「あなたがこの子を見つけたの?」

「いや。この子からきた。理由は知らんが、弟子にしてくれってね」

「えーっ!弟子っ!?」

 それはまるで、女子学生が「○○君が好きなの」って言ったときのリアクションのようだった。

「アリスに弟子なんて、おかしいわよ」

 リンがそういいながらワインを揺らす。

(それってある意味侮辱してないか……?)

 アリスはリンを睨んだ。

「まあまあ。アリスは一応、すごい魔女なんだし」

「一応ってなに……」

 ソラがアリスをかばおうとしたが、逆に怒らせてしまった。

「それはどうでもよい。なぜ、弟子などに?」

「さあ。あたしが聞きたいね。でも、紅い瞳のおかげであの子一回狙われたし、これからも狙われるかもしれないから、今は一応そばにおいてるってところ」

 ふぅん……と魔女達は相づちを打った。

「それにしても……なんであんな小さな子が。あの魔女も何を考えているのかわからないわ」

 リンが横目でルリを見た。

「全くだよぅ……あの“紅い魔女”ったら、何を考えている事やら——」

 その瞬間、周りの魔女や悪魔がざわついた。

「セレサ!その名を言ってはダメって、いつも言っているでしょう!?」

 リンが慌ててセレサの口をふさぐ。

「んぐっ……ご、ごめん」

 アリスは小さくため息をついた。

「とにかく、ルリが“紅い瞳”を持っている以上、狙われ続けるのよ。魔女からも、人間からも、そして“アイツ”からも……」

 アリスがそう言うと、そのテーブルは暗い雰囲気が漂った。沈黙を破ったのは、テーブルの近くの木の枝に座って話を聞いていたメイサだった。

「で、その話とあたしらが何の関係があるって言うんだい?」

「貴様、いつの間に……」

 セシルが剣を握るのを、ソラがすばやくとめた。

「落ち着いて。セシル。メイサの言う通りよ。それで、その子はどうするの?」

「え?あ、あぁ。あたしの家に今は住んでもらってるけど、いつ誰が狙ってくるかもわからないし、あたしだけじゃ危ないから、日替わりでみんなに一人ずつ来てもらいたいと思って……」

「えーっ!それってぇすごくいいじゃん!」

 最初にセレサがはしゃいだ。

「うん。私もルリちゃんのためにはそれが一番だと思うな」

 ソラもニッコリ笑う。

「まあ、よかろう。小さな命のためだ」

 聞き分けのよいセシルも、うなずいたが、問題はリンとメイサだった。

「あたしは嫌よ。子供は苦手」

 髪をいじりながら、口を尖らせてリンが言う。

「僕も無理……僕が来たところで、小さな子は大体怖がるし……僕からもお断りだしね……」

 メイサらしい答えだ。だがやっぱり一人はそれを受け入れられないらしい。

「アリスが困っておるのだぞ!?小さな子が、悪党共に狙われている。貴様は助けようなどと思わないのか!?」

「思わない……ね」

 セシルの顔が真っ赤になってゆく。ソラとセレサがまた落ち着かせる。

 こうなる事は予想できたのだが、とアリスはその様子を見ていた。

 リンも相変わらず爪をいじっている。

(仕方ない……三人だけに手伝ってもらうか)

 アリスがそう思ったときだ。セレサの魔術にかかっていたはずのルリが、よたよたとリンに歩み寄り、小さな小さな花をリンに渡す。

「お姉ちゃんにあげる」

 そして天使の微笑み。

「え、あ、ありがとう……」

 リンは戸惑いながら花をもらい、みんなの方へ向き直る。その様子を、みんなが冷たい目で見た。誰もが「こんな可愛い子を見捨てるの?」という顔でリンを見る。

「……わかったわよ!手伝えばいいんでしょ」

 リンがそう言いながらプイッとそっぽ向く。

「リンもいいところがあるじゃないか」

 セシルが褒めるつもりで言うが、リンはまた怒ってしまった。

「その言い方だと、あたしが悪いヤツみたいじゃないの!」

 まあ、これで四人になった。残りはメイサだ。

「貴様はどうするのだ、メイサ?貴様だけだぞ」

「だけ……?僕とあと一人、いるだろう?“あの魔女団”のうち」

「……」

 みんなが黙りこくる。誰もが頭にある人物を浮かべていた。

 だが事情を知らないルリだけは違った。

「ね〜、ね〜。“あの魔女団”って何?」

 誰も答えるわけがなかった。ルリは、木の枝に座っているメイサを見上げ、話しかけた。

「ねぇ?おねえちゃんわかるでしょ?」

 そして、ルリはその紅い瞳をメイサに向ける。

 その紅い瞳は、血のように赤く、薔薇のように美しい色だった。誰もが魅せられてしまう、紅い、瞳。
 その紅い瞳はメイサの心を惑わした。

「ふん……小娘が。僕に催眠術をかけようとしただろう……?」

「え?」

 ルリはさっぱりわからなかったようだ。

「あぁ!ゴメン、メイサ。きっと赤い瞳のせいで、間違えて魔術をかけちゃったんだよ……!」

 アリスが弁護したが、そんなことわかっている、という風にメイサは鼻で笑った。

「仕方ないな……」

「え?それって、いいって、いうこと?」

 アリスが思わず言う。

「ふん……僕だけ仲間はずれじゃあ、おかしいだろ」

 メイサがそう言うが、横でセレサが呟いた。

「あ、ありがとう!メイサ。大丈夫、仲間はずれになんかしないから」

 アリスがいうが、またしてもセレサが余計な事をい呟いた。

「仲間はずれ……ティアルも……」

 はっとしたソラがその口をふさぐ。

「まあ、何はともあれ、これでルリちゃんも安全だね!」

 ソラが明るくいい、ルリを抱き上げる。ルリは嬉しそうにソラの膝に乗った。

「うん、みんなありがとう!じゃ、明日から、暇な人でいいから、あたしの家に着てね」