ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 呪われた瞳と愉快な魔女達 ( No.91 )
- 日時: 2010/07/28 22:47
- 名前: 白魔女 (ID: PwsOoYFR)
短編——アリスの箒
それは、夜も更けた真夜中のことだった。
トイレに起きたルリは、いつも隣で寝ているはずのアリスがいないことに気がついた。そして寝室の隣の部屋から聞こえてくる物音。
——アリスが何か作業でもしているのかしら。
寝ぼけ眼で部屋を覗く。案の定、アリスがろうそくの明かりの中で何か作業をしているのが見えた。しかし、店の商品を作っている様でもない。一体何なのだろう——?
好奇心というのは実に怖いものである。それも幼子の好奇心は罪の意識の欠片もないのだからこれほど恐ろしいものはないだろう——とにかく、ルリはためらいもせずにその部屋の扉を開けた。
「アリス——」
「きゃあっ!」
ルリが口を開いてすぐに、それはアリスの悲鳴にかき消された。
「あぁ、ルリか、な、なんだ……驚かさないでよ」
アリスはあたふたしながら、机の上にあったものをはじに寄せようと手を動かしていた。その拍子に机の上から何かが転げ落ちる。
「——リボン?」
ルリが拾い上げると、黒いのリボンが落ちていた。アリスは小声で「あっちゃ〜…」とぼやく。
「見られちゃ仕方ないね……。いや、その、この間のリンとセレサの箒見て、結構飾りとか付けてあって、あたしも少しは付けようかなぁ〜……って思ったわけで……別に自分が遅れてるなんて嫌だとか、そんなわけは決して、決してないんだけどね……」
「そうだったんだあ〜」
アリスって、そういうの全然気にしないと思ってた。意外だなぁ、とルリは言いかけたが、アリスの真剣な表情を見てはそんなこと、言えるはずもなかった。
さて、その箒はどうなっているのだろうか——ルリは背伸びして机の上の箒を見て——そして絶句した。そこにはもう箒とはいえない形になってしまった哀れな木の棒があったのだから。
「これでこのリボンを付ければ完成だと思ったんだけど——なんか微妙に違うわよねぇ……」
微妙? どこが?
「……ルリ? どうかした?」
「……アリス、さ」
「何?」
「これ……作り直したほうがいいと思う」
しばらくの沈黙。しばらく口を開けていたアリスは、やっとこさ言葉を発した。
「うん……そうするよ」