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Re: -妖狐と魔術の交差点- ( No.13 )
日時: 2010/01/17 11:24
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

交差点10

 そして次の瞬間——ダルシーの持っているナイフ全てにヒビが入った。ナイフを破壊する為ではなく、ルーン文字だけを狙ったようなヒビの入り方。
 ダルシーは一瞬驚いたような顔をしたが、ヒビを入れられたナイフで銀髪少女の右の肩を切り裂く。
 銀髪少女が出血した部分を手で押さえていると、ダルシーが忌々しげに呟く。

「ガルドル魔術……!」

 『ガルドル魔術』これも神崎の頭に引っ掛かった。ルーン魔術を調べた時、一緒に載っていた魔術の一種。なんでもルーン文字には詠唱、または歌唱する為の特定の音があるらしい。
 ガルドル魔術はルーン文字を何かに刻む代わりに、ルーンを詠唱したり歌唱したりしてルーン魔術を発動させる魔術。
 ダルシーは銀髪少女に訊ねる。

「ガルドル魔術を使って、私のルーン魔術を破壊したのですか」
「ああ、オレは今、お前のルーンの力を破壊する為のルーンを詠唱した」
「……昔ルーン魔術どころか、ルーン文字にさえ縁がなかった貴女が、ね」
「お前の小細工破壊の為に、一応覚えておいた。お前の主力はルーン魔術ではないだろう? 早くアレを出したらどうだ?」

 只でさえルーン魔術とかいうのでも化け物じみているのに、これで小細工か。
 神崎はだんだん恐怖が薄れていった気がする。銀髪少女が割り込んできて、物事を客観的に見れるようになったからかもしれない。
 ダルシーは銀髪少女の問いかけに対し、暫く考え込んだがやがて口を開いた。

「……いいでしょう、貴女が後悔する事を望みます」

 ダルシーはすっと目を瞑る。
 ——そして呟いた。

「“御使の翼”(エル=ダンジュ)」

 神崎は、その光景に息をするのさえ忘れそうになった。
 そこに居たのは——天使。漆黒の翼を持つ、一人の堕天使。
 ダルシーの背中から闇を思わせるような、巨大な黒い翼が生えていた。おそらく彼女の魔法名“双翼の闇”とはこれからきていたのだろう。
 ダルシーは黒い翼で宙へと浮く。その姿に銀髪少女は驚く事もなく、怯える事もなく。只、鋭い視線をダルシーへと向けていた。

「“雷神槌”(ミョルニル)」

 銀髪少女は己の武器を構える。青白い火花を発する槌を。
 ダルシーはその様子を空から眺めると、呟いた。

「——“消えろ”(ディスパレッセ)」

 瞬間、いくつもの黒羽の弾丸が銀髪少女へと飛んで行く。
 銀髪少女はそれに対抗すべく、叫んだ。

「“稲妻”(エクレール)!」

 銀髪少女の雷神槌(ミョルニル)から青白く光る、巨大な雷が槍のように発せられた。黒羽の半分程度は落とす事ができたが、落としきれなかった残りの黒羽の弾丸が銀髪少女を容赦なく貫く。
 銀髪少女が痛みに耐えられなく、思わず片膝をつく。その隙を逃すダルシーではない。

「“闇黒の太陽”(ソレイユ=オプスキュリテ)」

 魔術の名の通り、黒羽がダルシーの頭上へと集まり太陽の如く巨大な球を作る。ダルシーはそれを一気に銀髪少女へと投げかける。
 神崎は「危ない!」と叫んだが、銀髪少女は片膝をつきながらも何とか魔術を発動させる。

「“絶対防御”(アプソリュ=デファンス)」

 銀髪少女を覆うように、緑色に光るドーム型の結界が出現した。
 神崎はこれで何とかなると思ったが、そうもいかない。闇の球体と結界はぶつかりあい、暫くは持ちこたえていた結界だがそれにもヒビが入り始めてきた。
 ダルシーは冷酷にも、銀髪少女に別れを告げる。

「さようなら、“白銀の討ち手”——エルザ=ハイゼンベルク」