ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: -妖狐と魔術の交差点- ( No.16 )
日時: 2010/01/23 16:21
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

交差点11

 ダルシーは“白銀の討ち手”こと、エルザ=ハイゼンベルクに対し勝利を収めようとしている。だがダルシーの顔は相変わらず無表情で、エルザが倒されるのを上空から見下ろしている。
 神崎はとっさにエルザを庇おうと、自身の身体がボロボロなのも忘れて走っていた。
 そしてあと少しでエルザを突き飛ばせるところまできた。だが——。

「あ」

 神崎は目の前で起きた事が衝撃すぎて、間抜けな声を漏らす。
 結界は破れ、銀髪の少女に漆黒の塊が激突し……そこには血塗れになって倒れているエルザ=ハイゼンベルクがいる。目の前で人が殺された。ドラマでもなく漫画でもなく、現実世界で人が殺された。それを目にした——この感情を、何と表せばいいのか分からない。
 つまり今の神崎は、自身の感情の正体さえ分からず何も出来ないでいる。

「この程度でしたか、実にあっけないものです」

 純白の世界に広がっていく紅。少女の力は所詮この程度だったのかと、ダルシーはエルザの死体を見ながら溜め息をつく。
 続けて、こう言った。

「……まあ、よく出来た幻影ではありますが」

 「え?」と神崎が聞き返す前に、何事もなかったかのようにエルザの死体が消えていく。
 神崎が理解する間もなく、後ろには少女がいた。肩につくくらいの銀髪に碧眼、スリットの入ったノースリーブの黒服。いつの間にか、エルザ=ハイゼンベルクがそこにいた。

「どうだ“双翼の闇”。たまには幻術も悪くないだろう」
「私としては殺す回数が増えて面倒なのですが」

 エルザの言葉からして、先程殺されたエルザは偽者という事なのだろう。例え幻でも、自分が殺された事を気にも留めない姿には少し不気味に思える。
 エルザは静かに右手を武器へと変え、構える。ダルシーも無表情のまま翼を広げた時、ダルシーに異変が起きた。頭痛でも起きたかのように、顔を歪めて頭を抱える。
 暫くして頭痛が治まったかと思うと、何か喋り始めた。

「……はい、では宜しいのですね? ……了解しました」

 ダルシーはエルザの方へと向き直る事もなく、違う方向へと羽ばたく。
 それをエルザが呼び止めた。

「……どこへいくつもりだ」
「依頼は破棄との事だそうです。貴女を殺す理由は無くなったので、では」

 それだけ告げると、ダルシーは飛び去っていった。
 神崎はあまりにもの展開の速さに、只眺めている事しか出来なかった。

 ***

「……おい。おーい、そこのツインテール。聞いてんのか」
「聞いていますよ。どうかしましたか? “双翼の闇”への『情報伝達』(テレパス)は終わりましたが」

 西洋館の雰囲気を持つソファにもたれかかり、少女に問いかけるのは黒髪に赤い目の少年。対して少年の問いに答えるのは、長さを同じに切り揃えた長い黒髪をツインテールにし、何故だがメイド服を着用している少女。
 少女が答えると、少年は「そうかよ」と言いガンベルトの装飾銃を放り投げてはキャッチする。
 そんな少年と少女の会話に割り込んできたのは、詩世より少し明るめの栗色髪に黒いドレスを纏った、人形のような顔立ちの少女。

「ハーデスが“双翼の闇”への依頼を破棄する代わりに、私達“十二柱”(オリュポンス)から九尾の妖狐捕獲の為、一人現世に派遣するらしいわ。派遣する人物に関しては好きに選んでいいそうだからオズ、行ってきて頂戴」
「は……っ!? 何で俺なんだよ。そういう事は俺よりベリアルとかロノウェの方が向いてるだろ」
「ベリアルもロノウェも今この場にはいないわ。四の五の言わず早く行ってきて頂戴」
「でもな……っておい、話聞けよヘカテー」

 黒髪の少年オズは、ソファに腰をかけ優雅に紅茶を啜る少女ヘカテーに文句を言うが、栗色髪の少女はまったくもって無視だ。
 オズは大きく溜め息をつくと、装飾銃をガンベルトに仕舞う。そんなオズに、ヘカテーは釘を刺すように言う。

「私達“堕天の一団”(グリゴリ)の名を汚さないようにね」
「っせーな……」

 オズは部屋の扉を開ける間際、小さく呟いた。

「ちっ、メンドくせー……」