ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: -妖狐と魔術の交差点- ( No.27 )
日時: 2010/02/02 21:20
名前: 更紗@某さん ◆J0e2FQAL2U (ID: YpJH/4Jm)

交差点13

 そういえば神崎は詩世を発見する前、コンビニに行ってたのだった。テーブルに置いてあったビニール袋の中からホットドックなどのいくつかのパンを取り出し、詩世と二人で食べていた。
 詩世は物珍しそうに袋に入ったパンを見ると、まるで小動物のようにくんくんと臭いを嗅ぐ。暫く考え込むと神崎の「食えよ」という促しもあり、思い切って袋を破りパンにかぶりつく。すると気に入ったのか、両手でパンを掴み、むしゃむしゃと食べ始める。
 そんな詩世を見ながら、神崎は思い出したように訊く。

「そういやさグリゴリ……だっけ? そいつらって何でお前を狙ってるんだ?」

 詩世は食べる動作を止め、

「結構長い間追いかけられておるんじゃが、それはわしにもよく分からん。わしが九尾の妖狐だからかのう」

 「へえ」と神崎が相槌をうつと、詩世は話を続ける。

「“堕天の一団”(グリゴリ)は“薔薇十字団”(ローゼンクロイツ)と並ぶ巨大な魔術結社……つまり魔術師の組織なんじゃが、門番(ゲートキーパー)を始めとし多彩な役職があるとエルザから聞いておる」
「……それってお前、かなりヤバイ奴らから狙われているんじゃ?」
「そうじゃな」

 一応詩世を心配する神崎だが、当の本人は呑気にコンビニの安いパンを小動物の如く食べていく。
 ダルシーも撤退し、本人もそう言っている事だし、とりあえず今はコンビニ食でも食べておく事にした。

 ***

 少年は、迷っている。というよりは目的地が分からず辺りを彷徨っている、なんてところか。
 少年の年齢は外見からして14〜16というところだろうか。毛先が少しツンツンした感じのする黒髪に、充血したような赤い目。格好はまさに『冬』という感じを醸し出している。ニット帽のような黒の帽子、黒いマフラーに黒のコート、黒のブーツと黒で統一された完全防寒服。——と言っても、本人は常時この格好なのだが。
 只少年の服装の中で一つ合わない物がある。少年の足の付け根辺りに西部劇を思わせるようなガンベルトが装着されており、二丁の銃が装備されてある。
 少年はある少女を探していた。本来なら“双翼の闇”という魔術師が標的の少女を浚ってきてくれる筈だったのだが、色々と事情があって代わりに少年が借り出されたわけだ。
 少年——“堕天の一団”(グリゴリ)の一柱・オズは面倒臭そうに溜め息をつく。雪が降り積もる純白の世界に、オズの息が白くなる。
 だがそう面倒臭がってもいられなかった。オズの後ろから僅かながら気配がする。オズは装飾銃を取り出し何も無い場所を撃った。
 すると何も無い筈の場所から、弾け飛ぶ。——雪ではなく、ルーン魔術に使う護符が。
 オズが「出て来い」と言うと、オズの後ろから一人の少女が現れた。緩いウェーブのかかった、腰まであるクリーム色に近い金髪にエメラルドグリーンの瞳、白いYシャツに緑色の細いリボン。グレーのブレザーにグレーのチェックのミニスカート。ミニスカートの少し手前まである黒いニーソックスに茶色のローファーと、一見どこかのお嬢様学校に通う少女のようだ。顔立ちも可愛らしい。
 ……だがオズと同じく、そんな外見を台無しにしているのは少女が手にしているいくつもの紙。ルーン魔術に使う為の護符だ。右手に持っているのは十数枚程度だが、おそらくまだ隠し持っているのだろう。
 オズはそんな少女に見覚えがあるのか、呟く。

「お前……“夢幻の旋律”か」
「その名前で呼ばないで頂けやしませんかね。私にはコリンヌ=ベルジュっていう名前があるんですよ。“薔薇十字団”(ローゼンクロイツ)では立場上納得してますが、魔法名で呼ばれるのは好いちゃいねえんですよ」

 どこか粗雑さの混ざった敬語で、少女・コリンヌ=ベルジュは不満そうに言う。オズは面倒臭そうな顔で「分かったよ」と了承。

「で、コリンヌだっけか? お前、俺に何の用だ?」

 オズが尋ねると、コリンヌは護符をもう片方の手にも持ち、にやりと不敵に笑う。

「愚問じゃねーですか? 私は“薔薇十字団”(ローゼンクロイツ)なんですよ?」

 瞬間、オズの周りをコリンヌの護符が取り囲む。

「簡単に言うと、あんたを殺しに来たんです」