ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: -妖狐と魔術の交差点- ( No.31 )
- 日時: 2010/02/09 19:07
- 名前: 更紗@某さん ◆J0e2FQAL2U (ID: YpJH/4Jm)
交差点15
勧誘の言葉に、冷静だったオズもさすがに目を丸くする。コリンヌは自分達側につけと——今所属している組織を『裏切れ』と言っているのだ。
驚きともう一つ、その言葉にオズは疑問を抱いた。コリンヌは敵である自分を殺しに此処に来た。『殺す』とも言っている——なのに何故『裏切れ』などと言ってくるのだろう。それとも油断させた隙に自分を抹殺する気なのか、はたまた仲間に引き入れ敵である“堕天の一団”(グリゴリ)に関しての情報を吐かせる気か。クスクスと笑うコリンヌの真意は分からない。
——何がどうであれ、油断はできねえな。
オズは目の前の敵によりいっそう、警戒心を抱く。コリンヌの不振な言動に。……それと何故かは分からないが、コリンヌの言葉にどこか感じていた“嬉しさ”を埋めるように。
そんなオズに対し、コリンヌは何も告げない。
少しの間二人から言葉は発せられなかった。しかしついに沈黙を破るように、オズが問いかける。
「……“夢幻の旋律”」
「だからコリンヌ=ベルジュだっつってんでしょーが。ぶっ殺されたいんですか?」
「何で俺を誘う? お前は俺を殺しに来たんだろ?」
「……最初はそのつもりだったんですけどねぇ」
コリンヌはクスクスと笑う。
「貴方の持ってる二丁拳銃……神器ですよね?」
コリンヌの言葉に、オズは軽く舌打ちをする。コリンヌは気づいたのだ、自分が所有している銃が只の銃ではない事に。
オズの脳裏に、昔の記憶が浮かんでいく。
こいつも所詮は貪欲な鼠共と同じか。
そう思った時にはどこか感じていた“嬉しさ”は消えていた。
「聞いた事があります。『魔弾』の異名を持つ神器、“太陽弾”(タスラム)。己の魔力を銃弾とし、練りこむ魔力の量によって大きさは自由自在。使い方によっては巨大な魔力の弾をぶっ放すだけではなく、科学兵器でいうと『散弾銃』(ショットガン)のように何十何百もの小さな弾を一気に放つ事もできる。遠距離戦においては最強と言われる神器……そうじゃないですか?」
敵の武器を完璧なまでに解説するコリンヌに、オズは黙り込む。やはりこいつも貪欲な鼠と思っていいようだ、とコリンヌの印象を固める。
何故オズがそう思っているかといえば、コリンヌが狙っているのは“オズ”という魔術師の存在ではなく、“太陽弾”という神器の存在。
おそらく自分を“薔薇十字団”に引き入れた後、所有者である自分を殺して神器だけ奪うつもりなのだろう。
だからこそ、オズは疑問に思う。
「今の“薔薇十字団”はそんなに力が欲しいのか? 神器ならてめえらも結構持ってるだろ。それに神器の『適合者』がそう易々と現れるとも限らないと思うけどな」
オズは吐き捨てるように言った。
コリンヌは一瞬吃驚したような顔でオズを見た。だが次の瞬間、馬鹿でも見たかのようにゲラゲラと笑い始める。
「貴方、馬鹿ですかあ? 魔術結社なら少しでも力が欲しいのが当たり前でしょーに。それは貴方のとこのボスだって同じでしょう? ましてや貴方が持っているのは神の力を宿せし“神器”ですよ、欲しいに決まってるじゃないですかー」
力が欲しいのは当たり前だと言うコリンヌに対し、オズは諦めたように溜め息をつく。——そして答えが決まったように銃を構える。
「コリンヌ=ベルジュ」
オズは初めて、少女を魔法名ではなく真名で呼んだ。
「“太陽弾”は諦めろ」
クスクスと笑っていたコリンヌであったが、答えを聞いた瞬間表情を変える。くりくりとしたエメラルドグリーンの瞳は細まり、痛い程の殺意を宿す。両手には、まるで暗器のようにルーンの護符を取り出し構える。
オズはコリンヌに銃口を向け、引き金を引いた。バアン!!という、静寂な純白の世界を引き裂く音が鳴り響く。
だが標的のコリンヌには当たらず、コリンヌはオズの後ろへと移動した。とっさにオズは後ろを振り向く。
コリンヌは両手に持っている護符を全て右手に移す。
「“五大元素の一角、大いなる恵みの水よ。それは人の生命を育み、時には堕落せし者を飲み込む断罪の青なり。水の支配者にして月の守護者、大天使ガブリエルの名を用いて此処に命ずる。今、我が身の為に此処に顕現せよ” 」