ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: -妖狐と魔術の交差点- ( No.6 )
日時: 2010/01/16 17:13
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

交差点05

 仕方無いので別の本屋に向かおうとする神崎。だが何故か茉莉までが、神崎と同じ方向を歩む。

「おい夜桜茉莉もといエセ陰陽師、何でお前まで着いてくる」
「だからエセちゃうわ。仕方あらへんから別の本屋に行くだけや」

 どうやら茉莉も神崎と目的地は同じらしい。神崎は小さく舌打ちをすると、それ以上何も言わなかった。これ以上口論する事は無駄だと考えたからだ。
 まったく今日はなんて日だと神崎は憂鬱になる。自称妖怪の事を忘れて頭をスッキリさせようと外に出たのに、それと関連性のある陰陽師(エセ)と会ってしまえばそれも逆効果だ。神崎は本日何回目かの溜め息をつく。
 歩いている最中、神崎は今までの事について整理してみる。
 コンビニから家に帰ってみれば謎の和服少女が、冷蔵庫の中身を食い荒らしていたと。家に乗り込んできた理由は“殺し屋”を兼ねる情報屋の魔術師——“双翼の闇”とかいう奴に追われていた為、匿ってほしいとの事。追われている理由は自分が『妖怪』だから(ここまでの発言は、少女に妄想癖があるとしか思えないのだが)
 そして少女は自分が妖怪だと証明する為、何らかの方法で俺のマフラーを燃やしたと。……この事に関して神崎は、どうやって燃やしたかというより自分のマフラーを、何の躊躇もなく燃やされた方が腹立たしいのだが。
 神崎がそんな非現実的な事を考えていると、いきなり茉莉が止まる。

「……これって」
「何だ、どうしたんだよエセ陰陽師」
「あんた気づかんの? おかしいやろこの現状」

 いつもなら「エセちゃう!」と言う茉莉だったが、今回ばかりはそのお決まりパターンは発動しなかった。
 言われている事が分からない神崎に、茉莉は言う。

「周り見てみい」

 その言葉に神崎は辺りを見渡し、そして気づく。辺りに自分達以外、誰一人として人間いない事に。
 そこまで人がいない事がおかしいかと言われれば、そうなのだ。神崎の住む地域は東京ほど都会なわけでもなく、むしろどちらかといえば田舎だ。だがそれでもこの辺りは本屋やスーパーがあるし、それなりに人がいても良い筈なのだ。

「……確かに不思議現象といえば不思議現象だが、それがどうしたんだよ?」
「神崎、後ろ気をつけとき」

 神崎は後ろを振り返ってみる。そして自分の脳内に問いかける、何故気づかなかったのかと。
 神埼と少し間をとって、長い金髪に翡翠の瞳、黒服の少女は立っていた。顔立ちからして外人だろうか。感情というものを完全に遮断したような翡翠の瞳は、それ以外の全てを映してはいなく、真っ直ぐに神崎を見据えている。
 冬、ましてや今日は雪が降っているのにノースリーブに疑問を抱くだろうが、それよりも金髪翠眼の美少女に思わず見惚れる神埼。それとは対照的に、茉莉は少女に対して警戒心を露わにしている。

「こんにちは、神崎辰巳」

 瞳と同じく、感情を一切表していない声で言葉を紡ぐ少女。唐突な発言に、神崎はうろたえてしまう。
 
「誰やねんあんた。あんたから妖気感じるんやけど、もしかしてこの周辺の周りに潜んでる——」

 茉莉の敵意剥き出しの言葉に、化け物達はゆっくりと姿を現す。

「妖怪、あんたが呼び出したん? 夜ちゃうのにおかしいやないの」

 そして次の瞬間、狼や犬など、様々な姿をした異質な獣達が神埼へと襲い掛かる。
 一瞬硬直して動けなかった神崎だが、化け物——そう、他の言葉で表すなら“妖怪”を、また別の獣が押し潰す。——それは、巨大な狼。

「式神“貪狼”」

 どうやら茉莉の“手”から出てきたものらしい。式神とは、本当に茉莉は陰陽師なのかと神埼は疑う。
 だが巨大な狼、式神“貪狼”は少女の隠し持っていたナイフにより、一瞬で切り刻まれてしまう。少女のとった行動は、まさに“瞬札”だ。切り刻まれた狼は複雑な模様が描かれた紙へと戻り、茉莉の手の中に納まる。
 茉莉の式神を瞬殺した少女は、先程の茉莉の問いに答える。

「先程の貴方の問いですが、妖怪を呼び出したのは私です。陰陽師とはいえ、こうも簡単にやられるとは考えていませんでしたが。——ところで貴方が“此処”へ入ってくるのは想定外の事。邪魔なので結界の外へ排除させて頂きます」

 瞬間、神崎の目に本当の不思議現象が映った。茉莉の姿が虚空へと消える。
 暫く神埼は唖然と茉莉が消えた場所を眺めていたが、少女がナイフを構えるととっさに身構える。
 ナイフと小柄な美少女など文字にしてみればミスマッチな組み合わせだが、その組み合わせは感情の無い少女と妙に合っていて、不気味にも感じる。

「私の名前は——真名はあるのですが、ここは“双翼の闇”と名乗っておきましょう」