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Re: -妖狐と魔術の交差点- ( No.7 )
日時: 2010/01/16 17:14
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

第二章 魔法名“双翼の闇”

交差点06

『追われているんじゃ、とある殺し屋に』
『正確には“殺し屋”も兼ねている情報屋の魔術師じゃな』
『因みに魔術師の魔法名は“双翼の闇”と言う』

 神埼の頭の中で、次から次へと詩世の言葉が湧き上がる。
 今、妄想癖かと思っていた少女の証言が、目の前にいる金髪の少女により確立されたものとなったのだ。
 という事は、詩世の言っている事は本当で——詩世は“九尾の妖狐”と云われる妖怪で——目の前の少女は“双翼の闇”と言う二つ名を持つ殺し屋——。
 全ての点と点が繋がった今、神崎の生存本能がうるさいまでに唸り始める。早く逃げなければ、神崎は目の前の少女によって亡き者となってしまうだろう。

「——お前は俺を殺しにきたのか?」
「『神崎辰巳を抹殺する』までは、依頼に含まれておりません。ですがこれからの私の命令に応じない場合」

 少女は平淡な声で言う。

「貴方を殺す事もありますが」

 淡々と言うその姿は、人を殺す事に何の躊躇いも持たない殺し屋の姿。自分とは次元の違う相手に、神崎は嫌な汗が流れるのを感じる。
 とりあえず此処から離れなければ、と神埼は思うのだが身体が硬直してしまい動かない。相手は何もしていないのに、相手の存在自体が既に威嚇なように神崎は感じる。

「では先程の事を踏まえて上で。九尾の妖狐をこちらに引き渡して下さい」
「……っ」

 相手は予想とおりの事を言ってきた。
 詩世は仮にも妖怪とはいえ小さな女の子、それを易々と殺し屋の手に渡していいのだろうか?

「えは……」
「聞こえないのですが」
「双翼の闇、お前は……俺が仮にあいつを引き渡したとして、どうするつもりだ?」

 少女は表情を変えず、神崎の問いに答える。

「依頼主からは九尾の妖狐を連れてくるよう、言われています。連れて来る為なら多少傷をつけても構わないそうです。ですので、本人が抵抗する場合は軽く半殺しにでもするつもりです」

 それを聞いて、神崎は背筋がゾッとした。怒りではなく、感じたのは恐怖。本当に少女は殺す事に躊躇いなど、人間らしい心など残っていないらしい。まるで命令だけに忠実に従う殺人機械。
 もしこの場で詩世を引き渡すような事をしたら、自分はこれ以下の人間だと言われているようで、神崎は拳を震わせる。
 もし引き渡したら、詩世は確実に抵抗するだろう。何故なら逃げていたのだから。
 渡してはいけないと、詩世を殺し屋の手に渡してはいけないと思った。
 
「……断る」
「はい?」
「あいつは……詩世はお前には渡さない!」