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Re: -妖狐と魔術の交差点- ( No.8 )
日時: 2010/01/16 17:14
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

交差点07

 神崎は何の能力も持たない、普通の人間だ。対して目の前にいる少女は殺し屋である魔術師、あまりにも無謀な宣言だが神崎にはそんな事を巻が手居る暇はない。
 神崎の宣言に一瞬、“双翼の闇”は苛立ったように目を細めたが、すぐに神崎を抹殺しようとナイフを取り出す。

「そうですか、貴方の脳は正しい判断さえ出来ないのですね。ならば仕方ありません。——貴方を限界まで痛めつけて、九尾の妖狐を引き渡して貰うまで」

 そう言い終えた後、神崎は何が起きたのか分からなかった。
 少女の姿が一瞬にして消え——気づけば神崎は何十メートルも先まで吹っ飛ばされていた。

「が……っは!?」

 内臓を全て吐き出してしまいたいような痛みが、神崎の身体に伝わっていく。
 神埼は腹を抱えながらよろよろと立ち上がる。少女は何か魔術でも使ったのだろうか?
 気がつけば少女は目の前にいる。

「感想を述べますと、正直驚きです。一応“本気で貴方を蹴ってみた”のですか、これで立ち上がるとは余程頑丈なのですね」

 ——は?、と神崎の思考が停止する。
 魔術でも何でもない、タネも仕掛けも無し。少女は只神崎の腹を“蹴っただけ”なのだ。
 
「蹴っ……? んなの有り得んのかよ……」
「有り得ないのは貴方の方です。大抵の人間はこの一撃で気絶するか、意識があっても全身の骨を折って立ち上がれる筈はないのですよ」

 “双翼の闇”の言葉に、神崎は自分の身体の頑丈さに感謝する。——が、これで目の前の殺し屋は終わらせない。勿論神埼もそう思っていた。
 “双翼の闇”は神崎に軽くラリアットを喰らわせる。神崎が後ろによろめいたところに、すかさず蹴りを入れ、倒れた神崎の腹を何度も踏みつける。
 胃の中身を吐いてしまいそうな神崎に、“双翼の闇”は氷のような瞳で神崎を見ながら問いかける。

「さて、本当ならすぐにでも貴方を抹殺するところですが、今回はそうにもいきません。九尾の妖狐をこちらに引き渡して下さい」
「……っ、こと……ぐっ」
「時間の無駄ですし、私が直接九尾の妖狐を回収するのが早いのですが、別れの挨拶くらいはしたいでしょう? 私なりの慈悲のつもりなのですが、従わない場合は貴方を殺して九尾の妖狐も回収します」

 『慈悲』などという言葉は、眼前の少女にはとても似合わないと神埼は思った。
 もし神崎が詩世を引き渡す事などすれば、神崎は助かる。が、そんなの自分の保身の為に詩世を売り払ったのと変わりはない。
 神埼の喉から、微かに声が発せられる。

「……こと……っわ……る」
「……随分と馬鹿な人間ですね」
「しぜ……は渡さ……ないっ……!」

 痛みに耐えながら、神崎は言った。神崎は詩世を引き渡すとは、断じて言わなかった。例え結果が同じでも、自分からリタイアはしたくなかった。
 神崎の答えに、“双翼の闇”は冷徹にナイフの先を神崎の方へと向ける。

「では、さようなら——っ!?」