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Re: 鬼桜伝 ( No.11 )
日時: 2010/01/18 14:18
名前: 咲夜 (ID: RjGXEztJ)

其の四 不安ひらひら。


「あら、花百ここにいたの?てっきり愁さんと一緒かと思ったのに!」

ふと背後から、雪村弥生の声がして振り返る。ニコニコと可愛らしい笑顔で花百の隣に座った。そして、少し大きめの御握りを差し出して「食べる?」と言って花百に手渡した。たぶん、弥生の手作りだろう。弥生の作る料理は全て美味しい。

「愁なら、島原にでも行ったんじゃないの?」
「はははは。愁さんが?花百がいるのに?ありえないこと言うわね、花百」
「・・・冗談です、冗談。・・・ん、やっぱり美味しい」
「───満月だから?今夜が満月だから、元気がないのかしら?」

突然弥生は、花百の顔を覗きこみながら言った。
やっぱり私は、元気がないように見えたのだろうか?駄目だ、弥生を不安にさせてはいけない。でも弥生は何でも見通す。だから隠せない。隠してもばれてしまう。
雪村弥生、本当は初音の跡を継ぐはずの次期巫女になるはずだった。強力な霊能力があり、初音にとても信頼されているから。でも弥生は断った。そして、代わりの少女が次期巫女になった。

「元気なら・・・あるわ!あるあるッ!」

私は笑顔で言ってやった。───どうか、ばれないで。強がっていることがばれませんように。弥生に不安を与えないで。

「そう?私の気のせいだったかしらね。じゃあ、いつもの花百ね」
「いつもの私なんだからっ。明日こそ、一緒にお散歩に行きましょうね?!」

弥生は優しく笑い、私の紫の瞳を見つめていた。

「───今夜は満月なんだってね、人間と半人間」

突然、目の前に幼い二人の子供が現れた。
双子で顔がそっくり。金の髪に、赤みがかった琥珀色の瞳。年齢は十歳くらいだろう。でも実際は百歳を越している。───半妖の双子だった。
狐と人間の双子、疾風と琥珀。

「疾風!琥珀!何故ここにいるのです!!」

弥生が怒鳴った。その気になれば、お前たちを消すこともできるんだぞ、というような雰囲気を出して。琥珀と疾風は不気味に笑った。───ひっひひひひひひひひ!

「いたら駄目?駄目?駄目なの、巫女になれなかった弥生さん!」
「貴方たちは何をするか分からないですからね」
「でも、たまには遊びに来てもいいよね。今夜は満月だもの!」

そう言って、双子は花百をじいっと見た。

「銀髪、紫の瞳、か。さすがだね、半人間の花百さん・・・」