ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 刃 ( No.108 )
- 日時: 2010/02/06 13:07
- 名前: right (ID: zuIQnuvt)
- 参照: 『刃』はご覧のスポンサーの提供でお送りしています。by『鷹』一同
Ⅷ.VS『バーサス』下
彼は見るからに動揺していた。手が、体が震え、冷や汗で髪が額に張り付いている。息もぜぇぜぇ、と荒い。下唇を血が滲むまで噛んでいる。
『弟』が生きていたからだろう。
だって『弟』は、今、目の前にいる『兄』によって殺されたはずなのだから。それは動揺するだろう。しかし、この動揺の仕方がおかしい。まるで——
『何か』に怯えている。
その『何か』は弟だ。なぜ、怯える必要がある。自分が殺したから?恨まれていると思っているから?
それとも、『弟』の中にある『何か』を恐れているから?
「み、づ…き」
腹の底から搾り出すような小さな声。
彼は『弟』を見るなり、先ほど渡した銃を構えた。
そう、『弟』に向けて。
「何で、何でお前が生きてるんだよ!嘘…だ、お前は、俺が殺したのに、どう」
「橋田架月は殺すな。後は、どうでもいい」
冷たすぎる、声。
彼の横を通り過ぎる幹部二人。一人は女で短剣を握っている。この女が福井愛美か。幹部リストに載っていた。もう一人は男で、軍服、やはり阪野幸輝だ。以前にも見たことがある。
こちらは、レオとレイナと大輝。そして彼と僕。五対二。何とか勝てるか、勝てないかぐらいの戦力だ。それほど、彼ら『ドラゴン・スラッシュ』は強い。
「レイナはレオのサポートを。大輝くん、あなたは僕をサポートしてください。…いざとなったら、殺してくれても構いません」
僕の『狂気』が出て来たら、頼みますよ…炎豪寺家の跡取りくん。ちらりと大輝を見る。OKと言わんばかりの笑顔だ。そして、ウインク。
「了解、隊長さん」
軍服の男、阪野幸輝がこちらをターゲットにしたのか、銃と手榴弾らしき物体を左手に持って、向かってきた。心葉はベルトから銃を二丁抜く。そして、撃つ。足元を狙っているが、簡単に避けられてしまう。しかし、避けることだけに集中していたのか、後ろにいる、ナイフを持った大輝には…いや、気づかれていた。背後に気を配りつつ、避けている。
「っち」
…弾が切れた。補充しなければ。撃つのをやめると、阪野は爆弾を僕に向けて投げ、銃を大輝に向けて発砲した。爆弾は補充を済ませた銃で撃ち、空中爆発させた。“ドンッ”と音が響き、埃が舞う。大輝は間一髪で弾を避けていた。危なっかしい。
生き残れることを、願う。
「だあっ!」
体育館の壁に追い詰めた。今だ、その顔に右のストレート、を?あれ、いない。今、目の前にいたはずなのに。しまった、後ろだ。振り向くと、今までの状況が一変、逆になってしまった。追い詰められていたのは自分だ。ナイフが振り翳される。斬られる、と思ったが福井が目の前からいなくなっていた。敵対する者としても、その素早さには驚く。けど、どこに。
レオだ。レオを狙っていた。天井にぶら下がっている。ステージにいるレオはまだ福井を探していて、気づいていない。ナイフが、レオに向けて投げられた。首だ、首と頭を狙っていた。
「レオ!頭下げて!」
「え、レイナせっうおう!?」
ナイフがレオの頬をかすめ、ステージの板に突き刺さる。
「あら…避けられてしもうた」
彼女が残念そうに顔を歪める。
強い。
これ、勝てるの…?
銃を構えたまま、架月は動かない。銃を向けている唯一の家族、ミヅキも架月をまるで、彼を見下しているように見据え、動かない。
「……」
「ミヅキ…!」
“ドン”
弾が、ミヅキの足を掠めた。血が、滴り落ちる。
だが。
「……!?」
傷が消えていく。
「あんたにボクは殺せない」
続く