ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 刃 第二章開始 ( No.209 )
- 日時: 2010/02/25 18:28
- 名前: right (ID: zuIQnuvt)
Ⅰ.astray[迷走・堕落] 上
「心葉っ!!!」
彼の頭の中から、何かが折れるような、砕けるような音がした。途端に心葉は、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「い……あ…いやあああああ!!!」
レイナの叫び声が、体育館中に響く。
彼らはもう、どこにもいなかった。
「…ほんま、あれでよかったんどす?」
学校の体育館から出て、数百メートル。
福井が、突然口を開いた。まるで、自分の機嫌を伺っている様子だ。少し怯えている。彼女にとって、自分は恐い存在なのだろうか。
「ああ」
ミヅキに肩を支えられ歩いている幸輝は薄く、口を開いた。
「幸輝さん…大丈夫ですか?」
福井は様子を伺う。
「……っ何とか…それに…しても、お前の『破壊』…はすごい、な…」
『破壊』。
僕の能力の名前、か。あの忌々しい人間どもに、この死にかけだった体を再びいじくり回され、こんな醜い能力を持たされてしまった。あの時よりも、酷かった。あの、研究施設。あの時は、まだ架月がいたからマシだったが。
もう、思い出したくもない記憶。
心葉は保健室に運ばれ、すぐに処置が開始された。頭蓋骨骨折に左腕のヒビ、背中の傷による大量出血。優先されたのは、背中の傷だ。出血がひどすぎるために、輸血が必要らしい。ここにはある程度の医療設備はある。だから心配はないが、医者がいない。頼れるのは、医学を勉強していた大輝と、そこそこの知識はあるレオぐらいだ。
心葉の処置が行われている保健室のそばで、レイナと俺は座って待っていた。
「心葉さんが死んじゃったら……私たちどう、なるんだろ…」
今にも泣きそうなレイナの瞳。よほど心葉は、この『鷹』にとって重要な人物なんだろう。そう感じ取れる。
しかし、ミヅキは何をして心葉を頭蓋骨骨折にしたのだろう。何か、大きな衝撃がない限り、頭の骨は骨折しないが、何もしていない。ただ、心葉の顔を掴んで、笑っただけ。見た目、何も頭には傷がなかった。
何かが頭に引っ掛る。
思い出そうとしても、何かが邪魔をする。
俺の中の何かが。
「もし、もし…聖也…?」
隣でレイナが携帯で誰かとしゃべっていた。
「あの…ね、心葉さんが…学校に…襲ってきた、『ドラゴン・スラッシュ』にやられて…頭骨折して…意識不明で……」
声が、震えている。
彼女は、必死に口から漏れる嗚咽を抑えて、しゃべっていた。その頬には、いくつも落ちていく涙。
「うん……うん…っ…わかった……」
そういうと、彼女は携帯を切り、二階の階段へと駆け上がった。…追わないほうが、いいだろう。
また、守れなかった。
誰も、何も。
俺は、何の力もない、ただの無力な……『人間』だ。
「貴公が、『盾』か」
どこからかする声。
会議室から現れたのは、紫色の目をした男。
知らないけど、知っている。
続く