ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 刃  ( No.43 )
日時: 2010/02/06 12:27
名前: right (ID: zuIQnuvt)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode=view&no=13503

恢羅さんのオリキャラが出て来ます。詳しくは参照を。

Ⅵ.ミヅキ 中

俺の左目を間近で見たヤツは全身から血を噴き出して、みんな死んだ。俺の周りにいた研究員らしき男や女、『実験用』のヤツらも死んだ。ヤツらの血は真っ赤で真っ赤で真っ赤で…美しかった。芸術だった。あの叫び声はまるで女神の気が狂ったような、頭に心地よく響く声。
他のモノには興味なんかない。俺はヒトの、狂ったような、苦しんで助けを求めている叫び声が好物。ヒトの血肉も好物。

さて、お前の叫び声は、血肉は…どんなものなんだろうなあ、『ミヅキ』さん…?ぜひ見聞したいよ。


——暗く、壁の色が漆黒の部屋に男が三人、女が一人いた。
ある男は左目に眼帯をしていて、ある男は血がこびり付いたナイフを持ち、ある女はソファに座って本を読んでいた。
そして、ある男はパイプ椅子に座って、自分の目の前にあるドアを見つめていた。
女はその男の様子を見て、静かに口を開いた。
「どう、なはったん…?ミヅキさん…」
やけにおっとりした声の調子で、特徴あるしゃべり方だった。しかし、おっとりとは裏腹に、右手には本を持ちながらだが、ナイフが数本握られていた。
「……残りの三人は?」
その男、もとい、ミヅキにしては低い声音だった。
「幸耀さんは…まだ時間がかかると携帯に…。残りの二人は、わかりまへん…」
女が携帯をいじる。
それを横目で見るミヅキの目は、少々怖い。
「『総統』は今、どうなっている…」
『総統』。
彼の口から、その言葉が発せられるのは久しぶりだ。普段は『あの人』とか『あの御方』ぐらいだが、今日だけはちがった。
イライラしている証拠だ。
「…まだイギリスにおります…」
そのイライラを刺激しないようにいつものように答える女。
「いつ、ここに来るんだ」
「来月かと、思われます…」
…………。
会話は、それきり。

しばらくして、女とミヅキはこの部屋を出て行った。アジトの見回りだそうだ。
残ったのは男が二人。
眼帯の男、いや少年は天井に、無様にぶら下がって、この部屋を明るくしている電球を見つめた。そして、僅かな時間だが、考えた。なぜ俺はここにいるのか、なぜ生きているのか、なぜこんな力を持ったのか。
答えは、自分にとっては簡単だ。

自分の快楽のため。

だから、久崎誓夜は生まれて、生きて、こんな力を持ったんだ。うれしい——そう、うれしい。歓喜だ。快楽のために生きるなんて、とても素晴らしいことだ。
ああ、早く、早く、この力で大勢のヒトを血まみれにしたい。あの声が聞きたい。手が、足が震える。心がうずうずする。早く、外に出たい。今なら幼児の気持ちが理解できる。なあ、『総統』、早くしてよ。俺たち『犬』を外に放してよ。『総統』…!
「誓夜」
男に肩を叩かれ、落ち着けと耳元で言われる。わかっている。そんなことぐらい。とっくに落ち着いている。
「うるせぇよ、ジャン」
そう言ってやると手を離した。

…仲間なんてどうでもいい。俺は、自分の快楽のためにここにいるだけ。それに、あの『ミヅキ』の無残な姿を見てみたい。それだけの理由だ。仲間なんてただの『カタチ』。いらない、屑だ。

早く、『外』に出たい。俺が今、望んでいるのはそれだけだ。

        続く