ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 刃 ( No.6 )
日時: 2010/03/08 20:52
名前: right (ID: zuIQnuvt)
参照: 『刃』はご覧のスポンサーの提供でお送りしています。by架月

Ⅰ.散るか散らすか

ここは、どこだろう。
何で俺は走ってんだろう。

……。

落ち着くんだ、俺。
暗い、路地裏。今、そこを走っている。迷路のようだ。
なぜ俺は走っているか。『狩人』から逃げている。つまり、俺は『獲物』だ。『獲物』だったら『獲物』らしく抵抗するか、逃げるか、喰われるか。今の俺にはその三つの選択肢しかない。逃げたらまた追われる。喰われたらそれでお終いだ。抵抗すれば『狩人』は減る。じゃあ、抵抗すればいい、ただ、それだけだ。俺たち『獲物』はただ、そうしているだけでいい。
だから俺は腰に挿している日本刀を抜き取って、立ち止まり、『狩人』を待った。
『狩人』は日本を襲ったテロ組織によって派遣された死刑囚だ。それなりに強い。油断してはいけない。常に緊張するんだ。体は熱く、心は冷たくして。
——来た。
暗い路地から仮面を被った黒ずくめの男が走ってこちらに向かってくる。その両手には、出刃包丁が握られていた。
俺は刀をしっかり握って、構えて、男に向かった。
「……っ!」
刃が勢いよくぶつかり、ギギッギギギッ、と金属同士が擦れ合う音が耳に付く。耳障りな音だ。
力を弱め、刃同士が僅かに離れた瞬間、俺は姿勢を低くし、刀を空いた腹に突き通した。
「……ぁ」
声にならない声が耳元で聞こえた。
生温かい血が、刀を通して右手に伝う。それが嫌で、すぐに『狩人』を刀から振り落とした。
今までよりかなり弱かった、と刀についている血を持っていた布でふき取りながら、心の中で呟いた。
——ここのルールはただ生き延びればいい。それだけだ。生き延びるため、『獲物』同士でやりあっても構わないし、ゲームだから敵がいてもいいだろうという、ゲーム開催者の意向で日本に派遣された全世界の死刑囚たち、つまり敵を倒して、少しでも楽になろうとしても構わない。なんでも有りなのだ。犯罪が犯罪ではもうなくなっているのだ。
無法地帯、まさにここのことだろう。

この、腐れきってしまった日本が、いや、日本ではなく、この、

『地獄』が。