ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 刃  ( No.61 )
日時: 2010/02/06 12:45
名前: right (ID: zuIQnuvt)
参照: 『刃』はご覧のスポンサーの提供でお送りしています。by愛子

Ⅵ.ミヅキ 下

彼は、全神経を耳に研ぎ澄ませ、目を閉じる。

——この部屋には大きな柱が四つ。上から見れば田んぼの『田』のような部屋だ。今、自分がいるのはど真ん中。唯一、道が交差するところだ。『息』の数は二つ。それぞれ、右上の角と左下の角の道。
ふぅっと、ため息を小さくすると、左手に握られている、刃渡り十五センチ近くのナイフを逆手に握った。
まずは‥‥右の『息』から、殺そう。
ゆっくりと前へ前進すると、壁。その右手に『息』のしている生き物がいた。怯えた顔。

ああ、これはこれは、醜い顔だな。

地面を足で、思い切りではないが、それなりの力で蹴り、生き物のすぐ後ろに付いた。
「ひっ‥‥あ」
恐怖で体が動かない。
叫ぶ直前、その首に、ナイフを突き刺してやった。途端に血が大量に噴き出す。そして、生き物は糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
彼の白いワイシャツが、頬が、手が生き物の血で染まる。
「‥‥‥」
手に付いた血を、舌で舐めた。
錆の匂い。
あと、もう一匹。


今日は断末魔の叫びが、そこら中から聞こえたと言う。


「おかえり、ミヅキ」
いつもと変わらないのは、彼女の笑顔とこの日常だけ。
恋人が、田淵愛子が僕をアジトの出入り口まで出迎えに来ていた。僕がこの世で一人、心から愛せたヒト。僕の全部を受け入れてくれたヒト。そんな彼女をめいっぱい抱きしめてやった。
「‥‥ただいま、愛子」
抱きしめたが、すぐに彼女は離れた。
「‥‥あれ、またヒト殺してきたの?」
くんくんと鼻を自分の服に近づける。
「‥‥」
短く、小さく頷く。
「そ‥で、何か収穫あった?」
「‥‥鍵を拾ったよ。僕の『お兄サン』のね」
「あー、グングニルの。それで‥どうするの?」
‥‥皆には内緒にしておこう。もちろん、愛子にも。だから僕は「さあ」と答えておくことだけにしておいた。

早く、あんたと一緒に『楽園』を作りたいよ。

誰も知ることのない『楽園』を、ね。



——鍵はどこだ?
架月は持っていないって心葉っていうニヤニヤ野郎が言っていたけど、いくら道路とか、ぼろぼろのビルやら家やら、探してもなかった。
鍵を探して早三日。残り、四日のうちに鍵を探さなければ、俺の大切な幼馴染が、殺される。でも、反テロ組織なのになんで、人質なんか‥‥。反テロ組織じゃなくて犯罪組織じゃねえか?‥‥まあ、いいか。それは気にすることじゃない。今は、架月だ。

これは命がかかっている。


        続く