ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 2072.1.29 【Episode02】 13up ( No.63 )
- 日時: 2010/02/21 19:22
- 名前: 黒神 恢羅 (ID: z.r.R/BL)
Stage14 「Lost」
研究施設を後にした俺らは焔の救出のため動き出した。
「焔を見つけ出すって言っても、何の情報もなしじゃ見つけらんねぇよ」
俺はガックリと項垂れていた。
「いや、見つけられる」
そう言ったのは朱雀さんだった。
「どうやって……」
俺が顔を上げ、朱雀さんに目を向けた。
「す、朱雀さん!! 目!! 目が」
俺は朱雀さんの目を指差しそう叫んだ。
なぜ叫んだか。
それは簡単なこと。
朱雀さんの左目から血が、流れている。
誰だって驚くだろう。
急にそんな光景を目にしたら……。
「何を驚いているんだ? ……ああ、これか」
朱雀さんは痛がる素振りも見せない。
第一に、先生が全く動じていなかった。
「せ、先生!! 朱雀さんの目が!!」
そう言って袖を引っ張ると、魁斗は「ん? あれがどうかしたか?」なんてさらりと言いやがった。
「……ああ、そうか。お前はこれ見るの初めてだったな」
先生は納得したかのように手をポンと叩いた。
「朱雀はお前と同じで能力者なんだよ。簡単に言えば敵の居場所を感知したり、あとはあの左目で見たものは何処へ行こうと必ず見つけられる」
先生が人差し指をピンと立て、教師のようにそう言った。
まあ、先生は教師だが……。
朱雀さんが能力者、でもなんだかあまり驚かない。
心のどこかでそんな気がしていたのかもしれない。
「てことは、今朱雀さんは前の奴らの居場所を追ってるって訳?」
精神を集中させている朱雀さんの代わりに先生が答えた。
「そうだ。で、あの血。あれは副作用みたいなもんだ」
やっと全ての疑問に納得した俺は質問の矢先を先生に向けた。
「じゃ、先生ももしかして能力者だったりするのか?」
先生はその質問には何故か答えようとしなかった。
気まずい表情で「また今度教えてやる」なんて言われたら従うしかない。
「見つけたぞ。あれは、渋谷の石川ビルか!! そこから焔くんと奴らの発信が出ている」
本当にすごい能力だ。
一気に敵の居場所を突き止めることが出来た。
さすが、朱雀さん……先生と違って。
ボソッとそんなことを心で呟きながら俺は感心していた。
「おい。お前今、俺と朱雀を比べなかったか?」
先生の鋭い質問をスルーし俺は荷物を背負い、立ち上がる。
「よし!! あとはいろいろ準備して突撃だ。絶対に焔を取り戻す」
「ちょーっと待ってくださいよ」
背後から聞こえる聞いたことのある声。
寿の、声だった。
「うわ。タイミング良過ぎ。なんなのこれ」
俺はナイスタイミングな彼の登場にため息を落とした。
そして気づく。
大鎌を持った寿の後ろに……氷花がいることを。
「氷花……」
俺は憎しみと悲しみの混ざる心を落ち着かせながら彼女の名前を呼んだ。
「寿、あなたにあの二人を任せる」
寿は少し黙り込んでから一言「おっけぇ」と言い先生達のほうへ飛び移った。
それと同時に氷花も俺の近くまで寄る。
「……なんで、奴らとお前が組んでんだよ」
俺の質問に氷花からの返答はない。
「答えろよ」
静かな怒りの混ざった俺の声が人のいなくなった公園に響く。
「椋絽、ごめん」
氷花はそう言って悲しそうな笑顔を見せた。
胸が強く痛む。
彼女のその表情に俺は思わず唇を噛み締めた。
なんで、そんな表情で謝るんだよ。
敵なのに。
裏切ったのに。
お前のこと、憎めなくなっちまう。
「謝るなよ。俺は、そんな言葉より何故裏切ったか、それが知りたい」
先生達の激しい戦闘を横目で見ながら問う。
「……この国を、おかしくなったこの国を。もう一度創り直すため、よ」
その言葉と同時に氷花は悲しそうに顔を歪め、俺に襲い掛かる。
俺はその攻撃を避け、話す。
「氷花。戻って来い。お前なら、やり直せる。俺が、それを許す」
その言葉に氷花は目をハッと開き、そしてまた下を俯く。
「無理よ……。私は、もう戻れない!!」
そう言って俺にナイフを向ける。
氷花の目に浮かんだ涙に俺は気を取られ、避けることが不能になってしまった。
「くそっ!!」
死んだ、刺された。
そう思ったのに俺の身体は痛みも苦しみも感じない。
目を開けば、目の前にナイフを握り締め、立ち尽くす氷花がいた。
ナイフは俺の胸ぎりぎりで止まっている。
「言……な……でよ……。優しいこと、言わないでよ!!」
そう言った氷花の碧い瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
「なんで、私になんか、優しい言葉かけんのよ!! 私、あんたのことずっと、ずっと裏切ってたのよ!? なのに、なのに」
俺は氷花の手からナイフを取り、優しく握った。
「お前の手、温かい。こんな手で、人なんか殺せねぇよ」
涙を流す氷花を見て、俺は確信した。
こいつはまだ、やり直せると。
その瞬間、嫌な音が耳を突き抜ける。
足元に紅い、血。
そして目の前には、氷花の胸を突き抜けた大鎌。
「な、んで……寿……」
そう言った氷花の胸元から一気に大鎌が引き抜かれた。
それと同時に大量の血が吹き出す。
倒れ込む氷花の身体を支え、俺は叫ぶ。
「なんで!! お前、仲間を!!」
氷花の息の音が小さく細くなっていく。
「なんでって、αの命令だから。もし、氷花の心が君らに揺らぐ場合は殺せって」
その言葉に氷花の目を見開かれる。
「ボ……スの? 嘘、嘘よ」
小さくか細い声が聞こえる。
「ホントだよ。俺も同士殺しは正直やなんだけど、αの命令ですし」
そう言って寿は鎌に付いた血を舐める。
「魁斗達はまた今度殺しに来るよ。今日は気分悪いから帰ります」
そう言って寿は姿を消した。
俺は震える氷花の手を強く握る。
「氷花!! しっかりしろ」
先生達も近づき様子を見る。
「駄目だ。もう、脈が弱すぎる」
朱雀さんが唇を噛み締めた。
先生も壁を蹴り、感情を露わにしている。
「椋……絽。焔、くんは……無事、だよ。それと」
「この世界を、守れるのはあんた、だ……け」
そう言って氷花の手から力が抜ける。
身体が冷たくなっていく。
死んで、いく。
「氷花ぁぁ!!」
こんな戦い、あっちゃいけない。
もう、大切なモノを失いたくない!!
俺は、
俺は、
もう、何も失いたくない。
失いたく、ないんだよ……。