ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.4 )
- 日時: 2010/03/01 12:40
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第01話
「…テ…。」
誰かが俺を呼んでいた。
弱々しくて聞き覚えのある声。
「…ヶテ。」
眼の前が真っ暗で、何もない。
誰かが助けを呼んでいる。
「…助ヶテ、……高彦。」
———『高彦』。
俺をこう呼ぶのは、1人しか思い当たらない。
すぐに声の正体がわかった。
「…北…条?」
俺はゆっくり目を覚ます。
朝日が、カーテンの間から差し込んでいた。
窓を開けると静かに風が吹いた。
4月とはいえ、まだ肌寒い。
歯を磨いて、着替えて、椅子に座る。
ボーっとしている俺を叱るかのように、
ケータイが激しく揺れた。
「…もしもし、高橋秀彦さんですか?」
『異動先の学校』の人からだった。
ココで評判を落とすわけにはいかない。
そんな緊張からか、俺は勢いよく立ちあがり、
背筋を伸ばした。
この春、俺は学校を移動することになった。
これで2回目だが、異動とはなかなかなれない物だ。
「こちらの学園の場所は
たった今、あなたのPCに送りましたので、
ご確認してください。では、失礼いたします。」
それだけ言うと、電話を切られてしまった。
返事をしていなかった事に少し後悔した。
俺はPCをチェックした。
ここから3時間もあることに気付き、
急いで車に乗った。
『神ノ子学園』…。
あの、北条がいる学校。
不思議と胸が震えた。
ゆっくり深呼吸してハンドルを握る。
「助ヶテ、高彦…!!」
あの夢の声がよみがえる。
ハンドルを握る手に力を入れた。
——…一刻も早く学園に行かなければ。
妙な不安で、頭がいっぱいだった。
家を出てすぐの信号が赤になる。
ゆっくり車を止めた。
ケータイが青く点滅しているのに気付き、
信号を気にしながらケータイを開く。
彼女からのメールだった。
『荷物を宅配便に預けたよ
しばらく会えないけど、頑張ってネ
美由紀』
そうだ、しばらくここには帰られないんだ。
俺の家から3時間も離れた学校に
毎日通勤したら体力がもたないし。
返信しようとケータイを顔に近づけた。
不意に信号がチラっと目に入る。
青に変わっているのに気付き、
急いでケータイを閉じる。
「学校着いたら、手紙送ろ…。」
アクセルを踏むと、
俺の家が、友達の家が、
どんどん小さくなっていく。
「…ほんとにこの山登るのか。」
家を出て3時間ちょっと。
人気のない所に大きな鳥居があるところまできた。
この上に『神の子学園』があるらしいが…。
「なんか不気味だな…。」
車から出ると、
風が背中を押すように強く吹いた。
「寒…。」
急いで車に入る。
本当にこの山の上に学校があるのか、
心配だが登ってみることにした。
静かに風が吹き、
カラカラと竹同士がぶつかる音がし、
太陽の光が、竹の葉の間からきらきらと光る。
それに見とれながら、
ゆっくり運転した。
『竹の森』を抜けるとすぐに
俺の家ぐらい大きな門があった。
誰もいないし、門は開きそうにない。
ケータイも圏外で、学校に連絡もできない。
「よじ登る…のはダメだよな。」
ひとりごとのつもりで言うと
何か、声が聞こえた。
「…ァハハ。
やれるもんならやってみ。」
あたりを見まわしても、人はいない。
「こっちや!こっち!
上見んとあかんで兄ちゃん!!」
上も見ると、あの大きな門の上に何かがいた。
逆光でよく見えないが、人のようだ。