ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 熱血教師と死神様 ( No.6 )
日時: 2010/03/01 12:43
名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)

第02話 

「兄ちゃん、お困りのようやな。」

門の上から少年が飛び降りてきた。
こちらに近づいてくるので、俺は後ずさりした。

「怖がらんでえぇんよ?
 ここ、入りたいんやろ。任せとき。」

少年は大きな門に手を触れた。
バチバチと音がする。

「危ないで、下がっとき。」

そういうと大きな爆破音がした。
煙が俺を包んで、何も見れなくなった。

「…だ、大丈夫か!?」

煙が濃いほうへ進んでいくと、
仰向けになった少年が笑っていた。

「へへ…これでは入れるで!」

少年は、何事もなかったように立ち上がり、
服についた砂をはらった。
煙が薄くなっていく。
眼の前にあったはずの門が、
跡形もなく消えていた。

「どゃ!凄いやろ!!」

少年は腰に手を当てて、
にんまりとした顔で言った。
俺は微笑で応えた。

次第に風が強くなる。

「…今日は風が強いんだな。」

「風…。」

少年は少し固まって、冷や汗を流し始めた。

「…に、兄ちゃん! 
 じゃあ俺この辺で…」

「またお前か、春」

今度は、真っ黒な髪の少年がこちらに来て、
『春』という子の襟をつかんで持ち上げた。

「ったく、お前は何回言ったらわかるんや! 
 ここの門は壊すな、俺が怒られるんやで!!」

「ごめん!ホンマごめんて!!」

黒髪少年は、こっちを睨んできた。
俺の顔を珍しそうに見てくる。

「…どうやら一般人のようやな、『おっさん』。」

25歳なのにおっさんと言われた。悔しいというか、
少し大人になったようで嬉しかった。

「おっさん、ここで見たこと忘れてくれん?
 俺ら、一般人に言っちゃだめな秘密抱えとるんよ」

こそっと黒髪が俺の耳元で囁いた。
『わかった』と、俺も小さく答えた。

「…何かと思ったら…またアンタらか!」

「ぅわ、チビラムや。逃げるぞ、春!」

「分かってるて、純!」

『ほな、また!』。二人はそう言って
向こうに逃げていった。

「まて、クソガキ——!!」

この声はどこかで聞き覚えのある声だ。
—思い出した、朝に電話した『丁寧な人』!

「あ、あの…。 
 朝に電話した『高橋 秀彦』ですけど…。」

鬼のような顔でこちらを見ると

「あ。」

一言つぶやき、子供のような可愛い顔になった。

「いやぁ〜、お恥ずかしい所を〜。」

咳払いをして
 
「えっと、わたくし
 『五十嵐・F・輝馬』と申します。」

と一礼した。

…なんだか『変』な学校だ…。




「で、ココが職員室です。」

五十嵐さんに、
簡単に学校内を説明してもらったが、
余りにも広すぎて良く分からなかった。

「…覚えられるかな。」

「ま、いつか慣れますって。
 コーヒー入れますんで、
 そこらへんに座ってください。」

やたら大きなソファに座る。
コーヒーの香りが、俺を包んだ。
眼を閉じると、朝に聞こえたあの声がよみがえった。

「…北条。」

そう呟くと五十嵐さんは手を止めた。

「あの子のこと、御存じなんですか?」

「えぇ、前にいた学校にいたので…。」

五十嵐さんはもう一度コーヒーを入れ、
『どうぞ』とコーヒーカップを手渡してくれた。

「あの子はかわいそうな子です。」

そう言って、俺の隣に座った。

「薄々気づいていると思いますが、
 ココは特殊な能力を持った子が集まる所なんです。
 我々はその子たちを『神の子』と呼んでいます。」

じゃあ、さっきの
『春』や『純』という子も
神の子なんだ…。

「北条さんのお父様も、
 神の子の一人でした。
 ですが北条さんがまだ小学生のころ、
 お父様は呪いでお亡くなりになったのです。」

五十嵐さんは、コーヒーに砂糖を入れた。
ポチャンとわざとのように音を出して。

「彼は…、お父様は『ゼウス』という
 素晴らしい神の力を持っていました。
 ですが北条さんを守るため、
 彼は悪魔と契約し、その命を捨てたのです。」

「…そんなことが…。」

「ええ…。北条さんも
 神の子の血を持っていました。
 
 北条さんには、お兄様がおられます。
 お兄様は『生神様』、
 北条さんは『死神様』の血を受け継いだのです。」

「死神!?北条が!!?」

「そうです。
 可哀そうなことに、
 北条さんのお母様は彼女を拒み、
 親戚の方も見向きもしなかったそうです。」

そういうと、
五十嵐さんはコーヒーをすすり、
ため息をついた。

「ちやほやとされるお兄様を目の前に、
 彼女は一体どんな気持だったんでしょうか。
 
 きっと身も心もボロボロになっていたでしょう。
 彼女を支えてくれるのは、たくさんの彼女の友達。

 友達がいたからこそ彼女は
 今日まで生きてこれたんです。きっと。」

五十嵐さんはコーヒーを飲みほした。
そしてにっこりとこちらを向いて言った。

「あなたのおかげでもあるんです。」

「…俺の。」

「彼女は、教えてくれませんでしたが、
 あなたとの関わりであなたを信用してるんです。」

「それって…!」

「言わなくて結構です。
 コーヒー冷めますよ。」

そうだ…きっとあの事だ。
1年前のあの『事件』——。

俺はコーヒーと一口で飲み干した。
そして自分に誓った。

『北条の心の傷を治す。』と——。