ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.8 )
- 日時: 2010/03/01 12:45
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第03話
『先生、起きて?』
「…ぇ?」
あたりは真っ暗。
その中にポツンと北条がいた。
「ぁ…北条?
なんで、ココに…。」
『うふふッ。
私は紫堂チャンじゃないわょ?』
眼の前にいる『北条』は、
人差指を自分の口元にあてた。
「…何を言って…。」
『…センセイ、分からないのぉ?』
こちらに『北条』が近づく。
ゆっくり後ろに下がる。
…そこにふわりと風が吹く。
いつの間にか眼の前に『北条』がいた。
『センセイ…。
一つ忠告してあげる。』
そう言って『北条』は
自分の人差指を、今度は
俺の口元にあてた。
『センセイは紫堂チャンを守れない。』
「!?ッ」
『教えてあげようか?
紫堂チャンの本当の姿。』
『北条』はニヤリと笑う。
—眼の前が白く輝いた…。
「はぁ…ッ!はぁ…。」
「先生、大丈夫ですか?」
眼の前に五十嵐さんがいた。
あぁ、さっきのは夢なんだ。
「…大丈夫です。
とても怖い夢を見てただけで…。」
「…高橋先生より前にいた先生方も
そうおっしゃって、気味悪がり異動したのです。」
「…。」
背筋がぞくぞくする。
あの声がよみがえる。
『センセイは、—守れない。』
このことか?
気味悪がって逃げるとでも思っているのか?
そう思うと、余計に強がってしまう。
昔、こんな俺を笑ってくれる北条がいた。
少し強がった事を言うと、
ニコニコした顔で見つめてくる。
鮮明にその表情が頭の中に映し出される。
「…高橋先生?」
五十嵐さんが不安そうな様子で顔を覗いてくる。
「長時間車に乗ってましたから、
疲れたんですよ。
先生のお部屋用意しております。
ゆっくり休んでください。」
「はぁ…。」
五十嵐さんはコーヒーカップを持って
カタカタと鳴らしながら、棚の上に置いた。
「さぁ、行きましょうか。」
「そうですね。」
ドアを開けるとコーヒーの香りが逃げて行った。
すがすがしい竹の間を通り過ぎた風が吹く。
中庭の所々に小さな鳥居があった。
「ココです、ここが先生のお部屋。
好きに使っていいですよ。ぁ、風呂がこっちで…」
部屋はとても広く、カーペットも柔らかかった。
「あ、あの…荷物はどこに?」
「え?」
向こうからヒョイと首を出す五十嵐さん。
チョコマカと歩く姿は子供のようだった。
「えっと、多分あっちの部屋です。
ちょっと見てきますね、待っててください。」
五十嵐さんは、そういうと
『あっちの部屋』に入って言った。
俺は一人ため息をつく。
「疲れた…。」
だんだんまぶたが重くなる。
頬をつねり目を覚ます。
眠気がしてはつねる…その繰り返しだった。
「…遅いな。」
俺は立ち上がり、
『あっちの部屋』を覗いた。
「あああああぁ———!!」
五十嵐さんの叫び声で
俺はすっかり目を覚ましてしまった。
「またお前らか!
全く手間かけさせやがって!!」
「痛いて!
許してや、チビラム!」
俺の知っている五十嵐さんとは全然違う人だ…。
さっきまで、おしとやかな人だったのに。
「その呼び名はやめんか!
何回言ったらわかる!!」
五十嵐さんは
『春』の胸倉をつかみ顔を近づけた。
「ごめんて!
申しません〜!!」
抵抗する春を尻目に、
純はこっちに来てひそひそ声で話しかけてきた。
「許してや、春とチビラムは
いっつもこんな感じなんや。…
おっさん、先生になる人やったンか。
俺な『後藤 純』って言うんや、よろしく。」
やっぱり『春』と『純』なんだ。
この二人が俺の生徒…。
「あぁ、チビラムって五十嵐のことな。
身長が俺らより低いし、羊やから『ラム』な。」
羊…。執事のことかな。純は冷静な子に見えるけど、
こんな良くあるパターンの間違え方するんだな…。
「『ひつじ』じゃなくて『しつじ』。」
俺はゆっくり言った。
純の顔は固まり、『ぁ—…。』と呟いた。
「ったく!チビのくせに…!
離せッつってんだろ!!女男ぉ!!」
「黙れ、クソガキ!
あれほど髪を染めるなと
言ったのに赤くして…!
その根性たたきなおしてやる!」
「だから!これは地毛や!!
わざわざこの山を下ってまで髪染めんわ!
俺の根性叩き直す前にお前のセンスを叩き直せ!」
口論は次第に激しくなる。
五十嵐さんは男だったんだ。
夢が壊れた気がした…。
「そ。チビはセンス悪いんや。
『神ノ子学園』て名前つけたのチビラムやで。」
純は親指で五十嵐さんを指しながら言った。
「…こんな楽しい学校に北条がいるんだ。」
すると口論はピタリと止まる。
春は五十嵐さんを押し倒し俺の目の前に来て、
「…兄ちゃん、実は俺から
紫堂取ろうとしとんか!?」
「はぁ???」
五十嵐さんはクスッと笑う。
ひゅーひゅーと冷やかす純。
「なんでそんな話になるんだ!別に北条は…!!」
「私が何?」
冷淡な声が背後に忍び寄る。
左目を黒い包帯を巻いた紫堂がそこにいた。
身体がじわじわと温かくなる。やっと会えた!
嬉しかったが、それどころではないようだ…。