ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 熱血教師と死神様 ( No.10 )
日時: 2010/03/01 12:50
名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)

第04話

「うるさいと思ったら…。
 もう、あんたら喧嘩はやめろって言ってるだろ!」

北条は腕を組みながらそう言った。
…本当に久しぶりだ。身長も前より高くなっている。

「なぁ、紫堂。
 この兄ちゃんと俺、どっちがえぇ?」

照れくさいそうな顔をして春は尋ねた。
北条はチラッとこちらを見て眉間にしわを寄せた。

「春じゃない事は確かやろ。」

純は春の肩に手を添えた。
その純の言動で喧嘩の引き金を引いてしまった。
隣で喧嘩が勃発している中、北条は怒ったような顔でじろじろとこっちを見ている。

「……ぉ…覚えてる?」

俺がそう言うと
北条はズイズイとこちらに近づいてくる。
『ん—…』と北条は唸りながらも考えていた。
それから時が止まった気がしたが、
喧嘩の音しか聞こえた。

「…高彦?」

胸の奥に詰まった何かが、すっと通った。
『高彦』、この子だけが言う俺のあだ名…。

「で、何しに来たの?」

「ぇ。」

変わったのは身長や顔つきだけじゃなかった。
あのころの北条は、明るかったのに。
今の北条はなんていうか、『シリアス』だ。

「あの…、今日からココの先生になることに…。」

北条の顔が急に凍りついた。

「聞いてないわよ…。どう言うこと?」

二人の喧嘩がピタリと止まる。
五十嵐さんもジッとこちらを見ている。



それからしばらく無音の時間が続いた。
その時間と切り裂くかのように北条はつぶやいた。




…—「帰れ。」


その声が響くと時も風も全て止まった感じがした。

「…北条?」

「帰ってよ…。
 こんなところ、あんたが来るところじゃない。」

北条の一言で、春と純はうつむいてしまった。

「…帰って、アンタのために言ってんの。」

紫堂は後ろを向いてそう言った。
どんな表情をしているのかわからないが、
だんだん声が『泣いているよう』だった。

「…じゃ、もう会うことは…ないだろうけど。」

「待てよッ!!」

俺は叫んだ。それしか方法が思い当らなかった。
…俺は『誓った』のだ。この子を守ると。

「…我慢してないで言えよ。」

北条は拳を作り、力を入れる。
カタカタと震えて血が滴る。

「何もできないくせに、
 そんなこと言うなッッ!!帰れ!!」

北条はそう叫んで、部屋を出る。
せっかく会ったのに…。
この一瞬を無駄にしてしまった、後悔した。


北条にはたくさんの心の闇がある。
父さんの死、親から見放された悔しさ…。
…それを振り払う力と度胸が俺にあるのだろうか?
そんな不安がどんどんあふれ出る。






-+*+番外編-+*+-


「どうして…ココに、高彦が…ッ!!」

私は走った。
竹やぶの中へ逃げるように。

眼が潤んで前がよく見えない。
肩に竹が当たって痛い。
それでも足は止まってくれなかった。

『…我慢してないで言えよ。』

また高彦の声が聞こえた。
それに気を取られていると、
お腹に何かが当たった。

「うぁ…ッ」

あたったのはまだ成長している途中の竹だった。

「痛ァ…、…何よ…。」

地面に寝転んだ。
甘く綺麗な4月の風が、
私をあざ笑うかのように強く吹いた。



『我慢してないで言えよ。』

あの声がまだ耳に残っていた。


私はその優しさが嫌いなんだ。
優しさに触れると、苦しくなって恋しくなる。
そしていつかその優しさが消えて『痛くなる』。

…父さんが死んだ時もそうだった。
優しくしてくれて、そんな父さんがいなくなって。

その『痛み』に耐えられない、
私って本当に無力。

…その『痛み』を強く締め付ける高彦。
高彦が『好き』だからこそ、
『痛み』が強くなって離れない。





自分が苦しくなる道を選んでここまで来た。
でもその『痛み』は胸に焼き付いて離れない。


——私は高彦が嫌い。