ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.16 )
- 日時: 2010/03/01 12:56
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第06話
「…ぅし!」
今日は、とてもすがすがしい朝だった。
こんな気持ちは、初めて先生になったとき以来だ。
学活と、数学と…。今日は4時限で終わりなんだな。
俺は体育専門だし、数学苦手だけど、
不安というより、楽しみでしょうがなかった。
…
「はざま——ス。」
教室に一番乗りしてきたのは純だった。
俺が黒板の下でしゃがんでいるのを、
純は気が付いていないようだ。
「おはょ、後藤純!」
純はカバンから教科書を出す手を止めこっちを見た。
「…び—…っくりした。」
そんなに驚いていないように見えるが、
純なりにビックリしたようだ。
「高彦さん、方向音痴ちゃうんや。
教室の位置がよぉ分かったなぁ。」
「だろ?よく言われる。」
「初めの頃、俺全然分からへんかった。
この学校、寮とか教室があって広いからなぁ。」
純とそんな会話をしながら、
俺は数学の授業の準備を続けた。
別に教材を使うというわけでなく、
俺が数学が苦手だから復習しているだけだ。
「じゅ———んッッ!!」
そう叫んでドアを勢いよく開けたのは春だった。
息を切らして、服装が乱れている。
「なんで先に教室いるねん!
一緒に行くって約束してたやんけ!!」
「誰かさんが寝坊するからなぁ。」
春は純の頬をつまむ。
『やめぇ。』と笑いながら純も仕返しした。
「おい、福田春。
新学期早々服装乱れちゃいかんぞ。」
「ええねん、ええねん。
紫堂に直してもらうから。」
「紫堂がお前の相手するわけなかろうが。」
ここの学校の生徒は面白い子ばっかりだな。
ついつい準備するのを忘れてしまう。
「…はょ。」
教室に風が吹いたようだった。
北条が静かに教室に入る。
純と春は普通にあいさつを交わし、
北条に話しかける。
それが俺にはできない。緊張してしまう。
顔が熱くなり、どうすればいいかわからなくなる。
昨日俺が一人の時に言ったあの言葉。
北条は知らないんだよ…な?
もし知っていたら…。
そう思うとどこかに逃げだしたくなる。
知っている訳ない…はずだ。
「何?
なんか隠し事しているの?」
北条は真顔でそう言った。
こんな様子じゃ、多分知らないだろうな。
「あぁ…、っとぉ……おはょ。」
もっと気の利いた事言えねぇのか…、俺は。
そんな後悔した俺に北条は『笑った』。
何も言わず、ただただ笑っていた。
俺はそんな北条に見とれてしまった。
生徒数3人の学校は、始業式を体育館でしなかった。
教室での簡単な式だった。
「…いつもここの学校の始業式って何してんの?」
「そやな…ぼけーっとして、終わり。」
純が頬づえしながら言った。
春は背伸びをし、北条は窓の外を見ていた。
「じゃあさ、自己紹介しよっか。
高彦さん、初めての授業だし…。
神の力とか、よくわからんやろ?」
春は心配そうに言った。
「大丈夫、昨日徹夜したんだぞ?
確か…、純は風神の後継者。
春は雷神の後継者だろ?違うか?」
純と春はキョトンとした。
俺はあえて『死神の後継者』の名前を言わなかった。
そんな気配りをしているのに気付いているかにように
北条は呟いた。
「私、『死神の後継者』、ね。」
北条の右目がこちらを睨む。
俺は焦った、言葉が出ない。
「かっけ—!
惚れなおしたで!紫堂ッッ!」
無神経なことを言った春を注意しようと思ったが
そんな心配はなかった。
「もぉ、変態!
寿命縮めるわよ?」
北条は笑っている。純も春も。
この子達は、皆の力をお互いに認め合っているんだ。
だから、喧嘩が起ったりトラブルが起こらない。
しかも北条は笑って過ごすことができるんだ…。
始業式が始まったばかりだが、
もうこの子たちのいい所を見つけてしまった。
…本当に今日はすがすがしい朝だ。
なんて一人で感激してしまった。
「で、今日は何すんねん?」
「そりゃあ、始業式に決まってるだろ。」
当たり前のように言ってみたが、
春は驚いた顔で言った。
「『始業式』〜!
ムッチャ懐かしい響きやなぁ。」
そのあと、純がため息交じりの声で続けた。
「この学校にはそんな式は無いんよ。
人数も少ないし、…第一面倒くさい。」
『面倒くさい』という言葉が少し気になるが、
人数が少ないという理由には納得した。
「1時間目は学級活動…。
いつも学活は何してんだ?」
「自習。」 「昼寝。」 「散歩。」
純、春、北条と
生徒三人は順番に答えた。
本当に学校なのか?ココは…。
しばらくの沈黙が続き、
その空気を切り裂くかのように純が言った。
「…高彦さんは俺らの力の事どれくらい知っとん」
「っとぉ…。……全然知らないなぁ。」
「じゃあ、学活はそれや。
高彦さんが俺らのこと知らんのはあかんしな。」
純は、指でパチンと音をたてた。
その瞬間、ドアが静かに開き風が教室に入ってきた。
「うゎ、寒ッ…!?」
気がつくと目の前にいたはずの純がいない。
『こっちや。』と声がしたのは…、上から。
「う…浮いてる!?」
純はふわふわと浮いている。
「これが俺の『風神の血』の力。
こーゆー風に、風に乗ることができるんや。」
純は教卓に飛び乗る。
「でも乗れるのは7,8秒程度。
時間になったら飛び移らんとあかんし、
風がなかったら自分で呼ばんと、…面倒や。」
『すげぇな』と関心する俺の頬に
バチッと静電気が流れる。
「純だけが凄いんちゃうで!
俺かて、指差した所に静電気が作れるんや!」
「せやかて、お前雷出せんやろ?」
「うっさい!今修行中なんや!」
「修行て何や?」
春は、からかう純に指差して静電気を出す。
それの仕返しに純が春をつねる。
『笑いながら』だから喧嘩ではない。
仲がいいふたりだな…。
「…あきれた。
朝っぱらからよくするわ。」
北条は座ったままだった。
この子は『死神の血』の持ち主だから、
俺に力を見してくれないんだな…。
そんなこと持っていると
北条と目が合ってしまった。