ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.20 )
- 日時: 2010/03/01 12:58
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第07話
「何?」
「ぁ…えっとぉ…。」
『死神』の力を見せてくれ、なんて
言えるわけがない。俺にそんな勇気なんてないし、
第一北条が傷ついてしまう。
「…何でもない。」
そう呟くと、北条は微笑んだ。
『お前が思っていることぐらいわかる。』
そんな目でこちらを見る北条は席を立ち、
喧嘩をする『二人』に近づいた。
まさか、二人を殺す…、とか…?
止めようと体が動く。だが遅かった。
北条の力は『発動』してしまった。
「あッ!紫堂やめろやぁ!!」
驚いた。
二人は死んでなんかないし、傷一つない。
だがピタリと止まったままだ。
「あんたら、うるさいのよ。
朝から喧嘩なんて…。やめないさいよ。」
北条は二人の『影』を踏んでいる。
…これも、北条の力?
「死神は『闇の支配者』とも言われてるの。
『影』も闇の一つだから、
『影』をコントロールすることができるのよ。」
北条が足を離すと、
二人は何かが抜けたかのように
ふらふらとその場に座った。
「…まぁ、紫堂がそこまで言うんやったら…。」
「喧嘩の続きはまた今度やな。」
チャイムが鳴ると北条は教室を出た。
北条の顔が笑っているように見えたのは、
気のせいなのだろうか?
少しずつ空が赤くなってくると思うと、
チャイムが授業の終わりを告げた。
「じゃあ、今日はここまで。」
そういうと生徒『2人』は荷物を整理し始めた。
1時間目の学級活動が終わってから、
北条は教室の外に行ったきり帰ってこなかった。
「…結局、帰らなかった。……」
俺が呟くと、純と春が顔を見合わせた。
『…いつも』と春が口を開く。
「紫堂はいつもこうなんや。
どこかに行ったきり、帰らへん…。」
「どこに行ったか分かるか?」
「分からへん…。
聞いたって教えてくれへん…。」
2人の顔は沈んでいる。
この子たちも北条のことが心配なんだ…。
俺は2人に早く帰るように言った。
2人の足が重たく見えた。
1年前のあの事件。その時もそうだった。
途中で北条がいなくなってしまった。
でも探すと案外近くにいたのだ。
—学校の隣にある鳥居の続く山の小道…。
その先には古い小さなお寺。
そこに北条がいた。傷ついた北条が。
俺は深く考えた。
北条はきっとそこに似ている所にいるんだ。
『鳥居』…。
この学校の中庭に鳥居があったはず…!
俺は走った、中庭へ。
自分たちの寮に戻る純たちを抜かしたのも気付かず。
「いない…。」
よく考えるとこんな簡単に思いつくところに
北条がいるわけがない。もしここだとしたら
北条も純たちに言っているだろう。
心のどこかで、
別に今日北条を探さなくてもいいじゃないかという
思いが込み上げてきた。
—…今じゃなきゃだめだ。
北条が呼んでいる気がする。
この学校は竹で囲まれている。
古いお寺に行く為の小道も竹が生い茂っている。
『…彦。』
北条の声が聞こえた。
ほんの一瞬、かすかに聞こえた。
その声のした方向に走る。
竹が俺の身体に当たる。
俺が行くのを拒むかのように。
「……ぁ!」
3分走った先には鳥居が続く道があった。
俺は立ちどまり息を整えて走り出そうとした。
雷のような痛みが俺の脚に走る。
それでも構わなかった。…俺は走り続けた。
幾つもある鳥居をくぐって。
—鳥居の先には
何もないひっそり佇んだ空間のようだった。
「…何度も言っているだろう。」
声がした。だが北条ではない、別の人だ。
俺は息を殺し、竹林の中に隠れた。
「お前の親父は事故で死んだ。」
「違うって言ってるじゃない!
父さんは事故で死んでない!」
「じゃあ、どうして死んだ?
また『神呪病』なんて言うつもりだろう。」
北条は黙って自分の拳を強く握っているのが見えた。
「父さんは確かに『神呪病』よ…。
…父さんは、私のせいで死んだ!私が殺した!」
そう叫ぶ表情の肩をさえる手が見えた。
ゆっくり顔を覗くが遠くてよく見えない。
「そうやって自分の首を絞めるな、アヤメ。
僕はお前を守るためにわざわざ事故死と…。」
『アヤメ』?
北条の名前は『紫堂』のはず。
「その名前で言わないで…。
…もうここに来ないでよ、一人にさせて。」
「そうだな…。どうやら邪魔者もいるようだし。」
しまった、ばれていた!
でも逃げたらだめだ…!北条が…。
「3つ数えてやる。
その間に出てこないと、その頭ぶち抜く。」
カチャと銃をいじる音がした。
このままじゃ、まずい…。
「3。」
俺をせかすかのように
カウントダウンが始まった。
こうなったら、もう逃げるしかない!
「北条!」
「…高彦!?」
俺は駆け出した。
北条の手を強く掴んで。
「待て、アヤメ!」
『奴』を無視して
俺は一心不乱に走った。竹と竹の間を。
「はぁ…。はぁ…。」
気がつくとまだ蕾の『うつぎ』がたくさんあった。
北条は息を切らしながら俺を睨む。
「なぜ、あんなことをした…!
お前死んでたのかもしれないのだぞ…ッ!」
「…でも、北条が…。
北条が俺を呼ぶ声が聞こえたから…!!」
北条は俺を押し倒した。
首を強く握る。力強くて呼吸がしづらい。
「馬鹿なこと言うな…!
私はお前なんか呼んでいない!!」
だんだん眼の前がぼやけてくる。
北条の顔さえ、はっきりと見えない。
「…死んでしまえ…、お前なんて!」
北条の手に力がこもる。
…怖くなんかなかった。俺は分かっている。
—北条は俺を殺さない。
「…死んでたまるか…。」
北条は俺を殺せない。
「なら…私が殺してあげる!」
「お前は俺を殺さないことぐらい知っている!!」
北条の手が一気に緩む。
俺は少し起き上がり、
呆然とする北条の肩を押さえた。
「…お前がそんなことするわけ…ッ、
……ぉ…俺お前のこと信じてるから…。」
首を絞められていたからなかなか声が出せない。
「お前は私のこと知らないだろうッ!!?
私は『アヤメ』と呼ばれているんだ!!!
『殺す女』と書いてな…!『殺女』と言うんだ!」
北条は俺の心臓を潰すかのように、
俺の胸を強く殴った。
「私は、父さんを殺した!」
「そん…なの、誤解…だ…。」
俺の意識がだんだん遠くなっていく。
「…お前が…そんなこと。」
眼の前が真っ暗になった。
北条がすすり泣く声が聞こえた。
気がつくと学校の自分の部屋に戻っていた。
布団の中、ちゃんと掛け布団も敷いてある。
一体誰が運んでくれたんだろう。
もしかしたら、今までのは夢…?
そう考えると足がズキズキ痛む。
足を見ると、所々にあざがたくさんあった。
これって竹に当たった時のあざか…。
だとしたら今までのは夢なんかじゃない。現実…。
『紫堂』と『殺女』…。
北条と一緒にいたあの男…。
彼女は何かを隠している。
でなければ、あんなに必死になるわけがない。
そう考えていると、なかなか眠れなかった。
不思議なことに外からの風の音も聞こえなかった。