ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 熱血教師と死神様 ( No.22 )
日時: 2010/03/01 14:11
名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)

第08話 

「高彦。」

北条の優しい声が耳元を通る。

「起きてるだろ、分かってるんだぞ…。」

冷たい目で彼女は言った。
だが声はとても優しく温かい。

「なんであんなことをした。
 『あの空間』に入ると、ヘタすりゃ死ぬんだぞ!」

俺は静かにベットから出る。

「俺はただ…お前を、」

「守りたかった、なんでしょ?
 そんなこと言う奴に限って、
 いざというときは逃げてしまう…。」

俺は黙ってしまった。
俺が言いたかったのは北条の言うとおりだった。

「…守らなくていい。
 私に関わるとロクなことないわ!」

「でも、俺は!!」

北条は強く壁を殴った。
その音は俺の心臓まで響いた。



「アンタが嫌いなの!!」


北条の姿は凛としていた。
…そうか、北条は俺のこと嫌いなんだ…。

だが、そんなのは口実だとわかってしまう。
北条が泣いているから…。

「一人で背負い込むな、
 苦しいことも悲しいことも。」

「…うるさい、死にぞこない!!」

「心配なんだよ、お前が。」

「嘘。私にはわかる。」

「嘘じゃない。」

「嘘。」

なぜか俺は腹が立たなかった。
腹が立つどころか、体の奥がキュンと痛む。



「…北条、俺はお前のこと好きなんだ。
 だからこそ守りたいんだ、お前を…。」

北条は眼を丸くして、俺を見る。
そしてしばらく考えていようだ。

「父さんも、そう言ってた。
 …そして逝った。どうせお前もそうだ。
 守るだけ守って…、すぐいなくなるくせに!」

俺は北条の言いたいことが分かった。
怖いんだ、この子は。
人を失くす事が、別れることが。

「大丈夫。」

北条の頭にポンと手を置く。
闇のように黒い髪はふさふさしている。



「俺はいなくならない。」



北条は俺の目をじっと見た。

「信じていいんだな。」

「あぁ、俺を信じろ。」

そう笑うと、北条は照れくさそうに下を向く。
そして俺に体当たりしてくるかと思うと、
両腕で俺を押し倒し、その反動でドアへかけた。


「なぁ、高彦。
 私はお前を信用している。
 
 …好きになったわけじゃねーからな。」

北条は顔を紅色に染めて、
ドアノブを見つめる。

俺は『笑顔』でうなずいた。
それを尻目に、北条は
最後に一言残してドアを閉めた。




—「これからも宜しく。」




パタンとドアが閉まる。
身体が一気に重くなるのを感じる。

疲れとか、そんなのじゃない。
自分の身体じゃ支えきれないほどの
嬉しさが全身にあふれ出る。

「…誰だ…。」

ふわふわとした空気が一気に冷める。
北条の声じゃない、…でも…女の声。

北条じゃないとしたら…。
あの時の…『もう一人の北条』?


「大当たり。」

俺は急いで起き上がる。      ・
あたりを見回すと机の上に座っている奴がいた。

「お前…あの時の!?」

「乱暴な口きかないでよ…、ふふっ。」

彼女の背中から蛇のように手が一本生えてくる。
その手はどんどん俺の所まで伸びてくる

「コレぐらい怖くないわよね。
 男の子だもの…ねぇ?高彦サン?」

その手は俺の頬をつたる。
俺はその手をすぐに振り払う。

「触んな…気持ちわいィ…。」

「あら、失礼ね…。」

手は彼女の方へ戻る。


柘榴の背中から何本も手がゆっくり生え出す。
それは本当にテレビで見た事があるような
『千手観音』の姿だった。

「高秀サンは紫堂チャンに興味があるでしょ?
 紫堂チャンの過去や、誰にも言えない秘密ごと。」

「…何が言いたい。」

柘榴の紫色の目がこちらを睨む。

「私には分かる…。」

ゴトン、と硬いものが床に落ちる。
というか、柘榴が落とした。

「本当は今日貴方を殺す予定だった…。
 でも諦めるわ…『おもしろそう』だもの。」

柘榴の背後の手の一部が銃に手をかざす。
すると今まであったはずの銃は灰と化して消えた。」

「お前は…一体何者なんだ!?」

「いずれ分かるわ…。
 その日まで貴方の寿命、『延ばして』あげる。」

そうして柘榴はあの銃と同様に消えた。

——俺の第六感が激しく反応する。