ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.24 )
- 日時: 2010/02/24 15:42
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
番外編 [ 試シ ]
「純、明日予定あるん?」
今日は金曜日。
生徒たちは休日に遊ぶ約束をしていた。
ここにきて初めての休日をどう過ごすか、
俺も教卓の上で頬づえし、ウトウトしながら考える。
…美由紀に電話でもしようか?
北条は俺の顔を支えていた腕を引っ張る。
急なことで驚く俺を彼女は笑う。
「明日、暇?」
短い言葉で北条は言う。
俺は笑ってごまかしながら言っているように見える。
何をごまかそうとしているのかは分からないけど。
「…暇だけど…なんで?」
もういとど頬づえをつく、顔を北条に向けて。
眼を合わせるとそらされてしまった。
「じゃあ…明日の10時。
中庭の鳥居で待ってる。
一人で来て、必ず…な?」
そう言うと、北条はそそくさと教室を後にする。
—高校生の頃、美由紀に呼び出されて告白された。
その時の美由紀の表情、今の北条にそっくり…。
顔が、熱くなる。
…
土曜日の朝。
結局俺は一睡もできなかった。
ただ黙って、服を着替えた。
俺は食堂に行く。
途中で北条とすれ違う。
北条は笑っていなかった、
照れくさそうな顔でもなかった。
今日の朝食は、
五十嵐さんが作った目玉焼きと小さなパンが2個。
毎朝美味しく頂いているけど、
今日は食べる気がしなかった。
俺は約束の時間に30分も遅れてしまった。
眼の先には鳥居にもたれている北条がいる。
「ぁ…遅れて……悪いな。」
ぼそぼそと呟くと、
北条は真剣なまなざしで俺を見る。
「ちょっと…こっち。」
腕を掴まれ竹林の中に入っていく。
気のせいか、竹は俺たち二人を
歓迎するかのように道を少し開いている。
『鳥居道』につく。
俺は肩で呼吸するが、北条は静かに息を整える。
「で…なんで北条は俺を…。」
何で呼んだのか、そう聞きたいだけだったが
なかなか上手く口が動かない。
「…今から私が何を言っても、焦らないこと。」
北条は俺に背を向けたまま呟いた。
それから静かに風が吹く。
「…横山美由紀は今日死ぬそうだ。」
「………は?」
いきなりだった。
心の準備はしていたが、
この事のための準備なんて一切していない。
どうせ嘘に決まっている。
冗談に決まっている。
前の学校の時の北条は、
冗談を言った時の顔が笑っている。
…彼女が死ぬ、なんて冗談は聞いたことないが。
「…おい、北条。お前…それって冗談…。」
北条はうつむいた。
絶対冗談だ。
どうせ笑いをこらえるためにうつむいているんだ。
「こんな冗談…やりすぎだぞ…北条?」
俺は北条の細い肩を持って、
身体をこっちに向かせた。
北条の顔は笑ってなんかいなかった。
彼女は静かに左目の包帯をとる。
その眼は黒く、真ん中に白い十字架が映っている。
「…これは『死神の眼』。
私の意思に関わらず、
今日、誰が死んでいくのかが分かる。」
「嘘だろ。
どうせお前…それカラコンか何か…!」
「私は死神だ。」
この言葉には短いながらも
とてつもない説得力を持っていた。
—今日、美由紀が、死ぬ。
俺は改めて、北条が言った
言葉の意味を一つずつ理解して言った。
「止めれるわよ。」
北条がぼそっと呟く。
俺の胸に引っかかっていた何かが
スッと水のように消えていく。
「本当か…?」
「…1回…だけなら。」
できることなら避けたい。
眼の前に『神様』がいるんだ。
チャンスは今しかない…。
「寿命を延ばせるのか?」
「延ばせるって言うか…。
今日死ぬ事を避けられる…っていうか…。」
「だったらそうしてくれないか!?」
北条はうなずいて黙ったまま、
両手を合わせ何かを唱えていた。
「…これで大丈夫。」
その言葉を聞いて、体が軽くなる。
俺の頬が自然とゆるむ。
だが北条は真面目な顔でどこかを見つめていた。
「悪かったな…忙しいのに…。」
「そんな事…!
ありがとう、助かった!」
俺がそういうと、
北条はどこかに去って行った。
美由紀は助かった!
心の底から嬉しさがこみ上げてくる!
だが、北条の表情が気になる。
俺は複雑な気持ちで部屋に戻る。
-+*+-+*+-
やっぱり、高彦は美由紀サンが好きなんだ。
私より、ずっとずっと美由紀サンの方が…。
「悪かったな、高彦。アレは全部ウソだ。
お前を試していただけだ。…
……『死神の目』は、本当だけどな…。」
私は一人で呟く。
もしお前が、美由紀サンが死ぬことを受け入れたら。
そしたら私も素直に『自分の気持ち』を
認めると…、受け入れると決めておいたけど…。
お前がそう言うなら、
美由紀サンが死ぬのを認めない気なら。
私だって、『自分の気持ち』を認めない。