ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 「君にとって、魔法とはなんだ?」 ( No.1 )
日時: 2010/12/27 17:48
名前: 樹 (ID: mUcdxMp7)

【∞】肯定?否定?
   どっちにしても、人は本気で言おうとすればするほど、その物事に穴を開けてしまう。
   もちろん、君も。





「君にとって、魔法とは何だい?」

 また、デサストレは僕に質問を投げかけた。とても質問しているとは思えない嘲笑的な表情を顔につけながら、ぼくの答えを知っていながら、ぼくがそれを言うのを待っている。

 意地悪な質問に、意地悪な質問の仕方だ。

 クソッ、殺したいほど憎たらしい。

 舌打ちをする代わりに、僕は心の中で毒づいた。


 今でも僕は、全くと言っていいほどにコイツのする行動、いや言動が理解できない。


「魔法ですか? そうですねぇ……一般的には西洋で行われていた不思議な行為を行うために使われたと思われる、非科学的、非現実的、未知の原動力を著しているモノ。つまり、現実には存在していない人間の欲望と卑猥な希望に満ちた『想像』あるいは『妄想』を理解したうえで、絶対にありえることが無いという失望と絶対に生み出されることが無い安心感から作られる『幻想』の力……僕はそう思いますよ」

 デサストレの目は僕を捉えていなかった。でも、僕にはデサストレがどこを見ているなんて分からない。

 なぜ?そんなの聞くよりも簡単だよ。

フフフッ

 デサストレが満足そうに笑いを漏らした。

「僕はね、君ならそういうことを言うとあらかじめ思っていたよ。存在するはずがない『魔法』を全面的に論理的に否定で固めて答える。でもね、否定すればするほど君の答えには穴ができる……これは前にも君に言ったことがあるねぇ」

「そうですか?」

 そうだよぉと、デサストレは笑うように言った。

 その冷たい笑い声は僕の体を通り抜け、静かな部屋の中をこだまする。ゾッと背中がうずいた。デサストレはその小さな体の中に、似合わないほどの重いオーラを背負っている。

 圧力なのか。空気圧なのか、重力圧なのかそれとも気力、なのか。どれにせよ、とても重いモノがあの小人に備え付けられていた。

 まぁもし、気力なのだいうのなら、僕はこの小人に人権的・かつ政治的に負けたことになっているらしい。一瞬胸に引っかかりを感じたが、直ぐにその考えの『こと』を捨てた。若干一五才の若造のくせして。

 フッと息を吐く。

「あとさ、君は本当に『それ』を否定しているのなぁ?ぼくには全然そう聞こえないよ。君は嘘の吐き方をわすれちゃったのかぁ?ってくらいに無鉄砲でスカスカのカスカスな論を言っちゃって……あっ! それとも…………動揺しちゃってたぁ?」

 アハハハハッ

 心底可笑しかったのか、デサストレはお腹を抱えて笑いだした。さっきよりもあたたか空気が部屋の中に流れたにもかかわらず、それは僕にとって氷点下の氷点下。いやそれ以上にまで下がりまくっている。

「…………ッッ」

 ギリギリと歯軋りの音が鈍く響く。無性に腹立たしかった。

 僕が動揺しているだと?

 動揺なんてしていないさ。いまさら、『あのこと』を思い出せるような心の要領は僕には無いし、思い出したいとも思ってないんだからね。目を伏せるようにして、細い目でデサストレを捉える。デサストレの目はこちらを捉えては居なかった。それでも、敏感に僕の視線を感じ取って、笑いをとめた。変わりにシニカルな笑顔をニッと顔に広げ、僕の姿をその青黒い、闇色の目が捉えさせた。

「動揺なんてしてない……てカオダネ。でもねぇ、君にとってその態度が最・悪・にっ動揺しているんだよぁ。わかってないのぉ? いつもいつでも無関心・無感覚の君が、こんなにも冷たい感情を体からあふれ出させてぼくを見ている。これで動揺してないなんていうのは嘘か冗談にしか思えないんだよぉ」

 僕は何も答えなかった。
 僕は何も動かなかった。
 僕は何も考えなかった。

 さっきと何も変わらない。のに——…

「ほぉーら、動揺しているじゃぁん。ぼくには何でもわかっちゃうんだからねぇ。ふくくくふふふ。でも、君にはぼくがわからないんだねぇ」

 ニヤリと、どこか寂しそうに僕を見つめる。

 僕は動かなかった。

「まぁ、あの論について答えるなら、答えは『間違い』点数で言うならゼロにマイナスをつけてゼロで割った数だねぇ。ほんとに赤点だよぉ。この間すっごく教え込まれたのに、また直ぐなおっちゃうなんて、君の悪いところだよぉ。あのことを忘れるなんてね」

 デサストレがずらずらと理解不能な言葉を並べる。でも、そんなことでさえ、ズキズキと痛んでくる頭に打ち消された。

「ちゃんと、思い出してあげてね」

 真っ暗に侵食れる視界に、それよりも深い漆黒の髪の毛が写る。

 この魔女っ子が……僕は、絶対に認めないか…ら…

 最後は一瞬だった。ふっと、光が飲み込まれ、黒い髪の毛が消えた。



 ああ、頭が痛い。