ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 「君にとって、魔法とはなんだ?」 ( No.2 )
日時: 2010/12/27 18:03
名前: 樹 (ID: mUcdxMp7)

 【一】

   【世界】それは一つではない。
   しかし、僕達が存在している世界は一つなのである。



 
 例えば、この【世界】が魔法で作られていると言う人が居たとする。

 例えば、この【世界】が科学で作られていると言う人が居たとする。

 前者にとっては、魔法が現実で、科学は希望であり非現実的なもの。後者としてみるならば、科学が現実で、魔法が希望であり非科学的なものだ。

 それが、前者には前者の後者には後者の【世界】

 例えば、それらさえも信念として持たない人が居たとしよう。

 でも、その人の【世界】は生まれている。

 なぜ? そうしないと生きていけないからだよ。でも、その話はまた今度にしようか。

 だから、海がこの【世界】を作っている人が居てもおかしくはないし、神様がこの【世界】を作っていると言う人が居てもおかしくはない。

 もちろん、人間が作っていると言っている人だっておかしくはない。



 なら、魔法がこの【世界】にないと否定することは、あながち間違っている。

 だってそれは科学がこの【世界】にないというのと同じ意味なんだから。

 
 その人にとっての【世界】。それはその【世界】がどのような存在なのか、その【世界】にとっての自分は何なのかそれを明確に確実に信念として想っているそのヒト自信の形だ。

 でも、そういう意味でとるならば、この世の中に魔法があるのは可笑しいし、この世の中に科学があるのはおかしい。

 逆に、魔法が無いのもおかしいし、科学が無いのもおかしい。

 つまり、何が言いたいのかというと僕達の【世界】と言うのは一つではないかもしれないってこと。

 いやもちろん、存在している世界は一つだ。

 でも、それは “最初で最後、唯一の” 共通点。同じ地域で、同じ環境で暮らしているとしていても、その人の【世界】は、その人の自身の観念の違いできまる。

 月とすっぽんのように、オセロの裏と表のように。違う。

 しかし、想いにはシグナルのような周波が存在している。細菌ウイルスのように、周りの周波と同調させる効果をもって。

 例えばもし、誰かが自分の【世界】を科学にしたとしよう。その誰かの隣に居た人がまだ信念を決めてはいないのなら、きっと直ぐにでも科学というシグナルに、自分のシグナルを同調させられる。


 おっと、かなりアバウトになってしまった。でも、実質その通りなんだ。

 そのとおりなのだから、僕も、もちろん【君達も】この科学という【世界】を信じきっている。当たり前のように、いや、当たり前なのだ。科学という一つの【世界】その存在を疑うなんてことは僕達にはできない。それが【世界】

 しかし、その僕がこうして魔法のことを語っている時点で、この論は天秤で並行に並ぶわけが無い。見ても、片方に偏りどこか不恰好な文字の塊にしか思えないよな。

 でもねぇ? そんな僕にも一つ、疑問というものがある。

 もし、この一つの世界に【科学という世界】と、【それ以外の世界】が存在するならば、僕達はどうなのだろう。その存在を認めることができるのだろうか?

 そして、もし、僕達がその違う【世界】の人と出会ってしまったなら、そのとき僕等はどうなっているのだろうか、その存在をその【世界】を僕達は信じられるのだろうか。

   僕達の【世界】






「……なんて。バカバカしい」

 ゆっくりと目を開けてみた。あれだけ思考したにも関わらず、僕の脳みそは未だ正常に起動できないで居る。いや、さっきのやつでもう一日分のエネルギーを使ってしまったのかもしれない。たまにはこういうものを考えて見るのもいと思ったのだけど、やっぱり僕には哲学、非科学的なことを考えるのには向いていないらしい。

 最終的なゴールが、自分が何を言っているのかわからなくなっていることじゃぁ、その論はは論とはいえない。やっぱり最初から答えがわかっているものから論はスタートさせなければいけないのに。

 バカだな。

 目の前の、板も何も張られていないコンクリートでできた天井を僕はただボーっと眺めた。それから、目線を下にずらしたが、何も無い。タンス以外何も置いていないこの部屋で見えるのはただコンクリート。酷く滑稽だと思わないかい? まぁ僕にとってはとても暮らしやすい物件でもあるけどね。

「ふぅ」

 バサッ

 無造作に、僕はフトンから起き上がった。瞬間的に初春の一番冷たい空気が僕の体を掠め、ブルリと体がこわばる。

「さむっ!」

 まず、その一言しか出なかった。

 もうすぐ——というかもう春の癖に何でまだ寒いんだ。こんなに寒いんじゃあ今日は外に出たくなくなるよなぁってことで

 パタ……もぞもぞ。よし、まだ寝ていよう。

 一瞬こわばった体をまだぬくぬくするフトンにもぐす。もういっそ今日はもうこのままねていようかな……

ジャジャジャジャァーン! ジャァジャァジャァジャァーン! 

 そうもいかなかった。

「ハァ」

 携帯がうるさく、僕に起きろという運命を突き出してくる。数少ない、というよりアドレスが入っている奴なんてひとりしか居ないので、ぐったりとフトンから携帯に手を伸ばした。

——— デサストレ ———

 わかりきっていたけど、う〜ん出たくない。でも出ないとあいつ怒るからな。怒るというより変な説教聴かされるんだよなぁ。さっきよりまた数度気温が下がった気がする室温、一瞬考えた末、カチッと携帯を開いた。

「もしもし」

 答えても、デサストレはなにも言わなかった。仕方なく僕はもう一度。「もしもし」二回目だぞ。

『二回目だね』

「そう思うなら一回に済まさせてくれ」

『あは〜。ゴメ〜ンねぇ』

 全然悪いとは思っていないなこいつ。

 はぁ、どうして迷惑電話紛いまことするんだ。いや、これはすでに迷惑電話だよなぁ。人様に電話をかけておきながら出たら無視って、友達に「こっち来て」と言われて来て見たけど「やっぱりいいや」っていわれたときと同じくらいひどいと思うぞ。

 意味わかりますか?ちなみに僕はわかりません。

 とにかくこの癖直さないとデサストレの後先に響くと思う。(いつもやられている側として)

 世間なんて僕は知らないけど、他人から見ればそれなりに……いや絶対迷惑電話としてみなされる。まぁそんなこと当の本人が気にすることなんて『無(ゼロ)』に『∞』をかけた数ぐらいありえはしないけどな。

「迷惑電話ぁ〜? とか思ってたら一週間以内に今在校中の学校から君の名前と席がなくなるよ」

 一瞬で声が低くなった。

「アハハ……。そんなわけねぇジャン」

 一瞬で動きが止まった。

 ちなみに、これは「そんなことできるわけねぇジャン」ではなく、「そんなこと思ってないから」って言う意味です。

 それにしてもコワッ。メッチャクチャコワ! なに? 今心の中読んだのですか。一気に血液が下に下がり、青白く鳥肌のたった肌を僕は上下にさすった。

 本気で怖いと思った。そしてデサストレは簡単にやってのけそうなのでさらに怖い。

「できないことは無いよ」

「…………」

 ブルリとまた体が震える。また、なんで分かったんだ?何で僕が考えていることが分かったんだ。一回ならずして二回も、か?

  なんで。

「何でって思っているね? クスッ図星みたいだ。まっ、その答えについて言うなら、ぼくが魔法使いだからだよ」

 すごくからかわれているような気分だったが、僕は何か胸に引っかかりを感じた。

 バカバカしい。

「魔法使い……ね。じゃあ、そんな魔法使いさん」質問と受け取ったのか、デサストレ(兼魔法使いさん)は「うん?」と声を漏らした。

「今僕が見ているテレビの女の人が何を思っているのか当ててみてよ。できるよね? 魔法使いさんなんだから」

 意地悪な質問だ。

 もちろん、僕はテレビなんてつけてないし、女の人も写ってなんかいない。それに、そもそも僕の部屋にテレビなんてない。そんなことデサストレは知らないのだろうけど。だから、もし、これで答えたりなんかすれば、僕はまだデサストレという人物にこれほど警戒心は持たなかったのかもしれない。

 いや、僕がただ持ちたくないだけなのかもしれない。

 とにかく、早く答えろ。早く 速く 早く 速く

「んー。無理だよ。だってぼくは気持ち専属で君専属の魔法使いさんだからね」

「…………」

 なぜかわからないが、その瞬間気が抜けた。なぜか、それが僕には理解不可能だった。

 でも、もしかしたら少しほっとしたのかもしれない。そう、もしかしたら本当にデサストレがそう答えるかもしれないから。ほっとしたのかもしれない。

  ——— デサストレにはありえる。デサストレならできる。どんなことでも。たとえ、それがこの【世界】に存在しない魔法だとしても。デサストレにはできる ————そんなことを思ってしまわないように。思えないように。

 そう、例えばもしさっきの答えの続きに

「それに君の部屋にはテレビなんて無いんだからね」

 なんて言葉が続いていたなら……。続いていたなら……。

 あれ?今、脳内のデサストレとなぜか耳からのデサストレの声がハモった気がする。

「ねぇ、そうでしょう?」

「…………」

 ああっ。

 するりと携帯が手からすべる。

 ポスッ

 落ちた携帯から、まだデサストレが何かを言っているのか、機械音のようなキンキンな音が鳴っていた。でも、今僕はそれを聞くことができない。聞いても、僕は聴けないだろう。



 魔法使いさん? ……なんて、バカバカしい。


「まぁ、本題に戻るから携帯に耳当てて」

 なぜかそのことばは僕の頭にすんなりと鳴り響いた。

 ハッと我に返り、落とした携帯に目をやった。きっとデサストレはさっき僕がフトンに落としたときの音を聴いていたんだ。だから、今の言葉を言ったに違いが無い。

 でも、僕がまだ携帯を取らない確立なんて何百秒分の一の確立なのに、なぜ……いや、やめよう。そう、たまたま。


     たまたま当たっただだけ。

 無理やりなきもしないではなかったが、僕は頭を切り替えた。

 そして、落とした携帯に手をかけ耳元に置こうとしたが一瞬、何か胸に引っかかり、耳元に寄せるのを躊躇してしまった。でも、そんなことをしてしまったら僕は、それこそ思いたくも無い魔法の存在を認めるのではないのだろうか。その時の僕に、コンナことは考えていなかったが、これ以降はすんなりと耳に携帯を押し当てられた。

「で、本題ってなに? デサストレ」

「う〜ん。この期に及んでそれをまだ言うか。それとも気づいてないのかい? 時計、時間だよ。今何時だと思っているのかなぁ?」質問をしているはずなのに、デサストレは僕が時間を見る時間も与えずに続ける。「はい、正解は10時4……5分だよ。ぼくが電話をかけたのが10時ちょうどだからもう5分も話してる。ハァ……全く5分なんて本当永遠に近い数字だよねぇ? え? そうは思わないって思っているね。正解。君の言うとおりだよ。でも、今は5分なんて思えなかったでしょう。そもそも、君はしっているのかな? 人間っていうのはね、精神的に自分が不安定だと、ほら緊張とか恐怖とか嫌な気持ちのときだよ。その場合ってねぇ、時間を遅く感じることができるんだよ。そう、例えば5分が10分とか、5分が15分とか、5分が30分とか、5分が一時間とか、5分が10時間とかね。ほら、これを聴けば5分なんて永遠に近い時間だと、君は思わないかい?」

「思わないね」

 思いもよらず即答で、自分ながらびっくりしたが、デサストレはいって冷静。まるで僕の答えがわかっていたように嘲笑的に「ふぅん」と相槌を打った。

「だってそうだろ? そう思っていてもドウセ時間なんてものは過ぎるんだよ。絶対的に。これはどんな理論をかけても否定を証明するのは不可能。デサストレだって分かっているだろ?」

「ふぅん? まぁそのとおりだね。だけど、今ぼくが聞いているのはもっとちがうことなんだよ————とりあえず、この話はまた後ほどにするとしよう。このままじゃぁ一日あったって話はおわらないからね」

 デサストレがそういうのだ。きっとそうなのだろう。まぁ僕にとっては今話そうが、話すまいが同じなのだ。もちろん、一生話さなくたってかまわない。デサストレと話すときはいつも面倒だから。

 一瞬の間を置き、僕は口を開いた。

「で、本題ってなによ」

 二回目だ。

「うぅ〜ん。まぁぼくは優しいから教えてあげないことは無いよ。まず、今日は月曜日。イッツア・マンデイ!そして、今は十時過ぎ。しかも君は19歳。義務教育は終わっていても、君はまだ学生なんだよ。だから」

「だから学校へ行けと……」

 なんとなく言っていることが理解できた。「普通に言えばいいのに……」なんて死んでもいえない。むしろ言ったら死ぬ。


いちいち面倒な奴。

「そっ、分かっているじゃん?」

 ゾッ

 耳から体全体に広がった不思議な疼き。なぜか、デサストレの声音はさっきの数倍も低く、最後の上がり調子がさらにブルリと体をふるわせた。

 僕の頭にはさっきのことがよぎる。

「そういうことで、君は今一体何をしているんだい? 学生くん」

 ノータッチだった。僕は口から、いや、胸の奥の奥から深くて浅いため息をつく。あっ、今のデサストレに聞こえたか? まっいっか。

「ノープログレム、だよ。デサストレ。今日は大学が創立記念日で休みなんだ。だから今日は図書館に行って本を借りてこようと思っていたんだ」

「はいっブ————! 勝手に休みにしない。今日はどこも普通に学校だよ。ぼくがなにも調べてないと思わないでね」

 ダメだったか。

「へいへい。じゃあ、今から行けとでもいうのかよ」

「いや、そういうわけでは無いのだよ、君」

 しらっと、あっさりと答えた。もちろん、僕の心も一瞬でしらっとあっさりとなった。

 ん? なんだ。何なんだこの生き物は? さっきから「学校に行けよ」みたいなことを言っていたくせに、そしてそれが本題のように語っていたくせに違うのかよ。

「本題はまだ終わっていないのだよ。焦らすのもいいのだけど、ぼくは優しいからそのまま言ってあげるよ。絶対に科学しか信じない君に、それ以外のことには動じない君に、“少し頼みごとがあってね”」

 プツッ

 プー、プー。
 プー、プー。

 その瞬間、僕は携帯の通信を切った。