ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 「君にとって、魔法とはなんだ?」 ( No.3 )
- 日時: 2010/05/06 10:57
- 名前: 樹 (ID: 9Q/G27Z/)
【二】
ミステリー小説って僕好きじゃないんだ。
なんで? だって必ず答えがあるじゃないか。
とある事務所の帰りのこと。
事務所の仕事が片付かず、気がつけば夜だった。午前一時と深夜になり、私は車を止めた駐車場に入った。朝は止めるのに20分くらいかかるほど車がいっぱいに置いてある駐車場だが、今は私の車以外一台も止まっていなかった。
数十メートル先にポツリと見える私の車。
でも、私はそこへいけないf。
なぜなら(いや、そんな理由なんて分からなかったが)目の前にる女によって、私がそこへ行くことをさえぎられていたからだ。
身長の高い女性だった。遠くから見ればそれなりに美しく見えるであろう、長い黒髪に、着栄えのよいスーツ。しかし、それはアクマで遠くから見れば、の話なのだ。
女の長い黒髪はボサボサに乱れ、着成りのいいスーツはクビから胸元までが肌蹴いる。その肌蹴たスーツのブラウスから蒼白した女の肌が卑猥にその女の顔を引き立てた。狂乱しているのか、その顔はゾッとするほど醜くゆがんでいた。例えるなら、そう、般若。
女が、こちらに歩み寄ってくる。血走った目が私を捉えていた。
広い駐車場の真ん中で、ブルリと私の体が震え上がった。私は即座に、後ろにあと去ろうとしたが、足何かに当たったのか、それ以上後ろに動かない。
私は、何もしていないはずだ。
ポツリと、震える口がつぶやいた。
我を忘れているのか、その女はいきなり強く私の胸元に掴みかかり、片方の手で私の首を絞めた。柔道もプロセスも何もやっていない唯の素人。でも、我を忘れている人間にとってそのことばは意味を持たない。締められた首に更に力が加わる。ヒュッヒュッと息が喉に詰まった。必死に逃げようと、私は背中をのけぞったが、女の力は緩まない。
このままじゃ、私は死んでしまう。
では、このとき、私は何をすればいいのだろう。
とりあえず、あとかたずけだけはキチンとしよう。
とある事務所の朝のこと。
「おはようございま〜す!」
ガチャリとあけられたドアから、明るいトーンの声が響く。
私の声に気がついたのか、事務所の後輩が、私の所に歩みよってくる。何かいいたいことでもあるのか、その顔にはニマニマといやらしい笑みが乗っていた。
「おはようございます。あっ先輩聞きました?」
「なにを?」
「昨日、この近所で女の人が一人殺されていたんですよ!」
私はそれを右から左へ受け流すように聞いた。なぜか、そのことばに抵抗が無かったからだ。
「へぇ〜」
「へぇ〜。てなんでそんなに無関心なんですか?殺人ですよ?さ・つ・じ・ん!あ〜怖い。怖い。スリルが怖すぎるよぉ」
身悶えるほど、何がそんなに面白いのだろうか。
「しかも、その犯人ってさぁ……」
そこで、なぜか後輩が更に顔をにやけさせる。
そのあとの言葉は、ちょうどよく登場した部長によってさえぎられたため何を言ったのかは聞けなかった。
でも、口の動きがほのかに「せんぱい」と見えたのは気のせいなのだろう。
そもそも、あの場には何ものこってなどいないわけで、後輩の言う殺人というのは違う人に決まっていると思い込んでいたからだ。
そう、あの場には何ものこっていない。
今日は車に乗るのがすこし怖くなってしまうかもしれないけど。
今日の事務所は平和だった————
パタッ
あまり読まれていなかったからか、本は軽い音を立てて閉じた。
———秘密殺人目録———
その本の題名だ。まぁ、なんといいますか、ことごとくクドイ書き方だ。題名が堅苦しく漢字で埋め尽くされているくせに、内容がかなり生ぬるい。何より、殺人中の描写が書いて無いことでそれが分かるだろう。
そして何が秘密目録だ。思いっきり目録者がこの中に出てきているじゃないか。これは短編集なのだが、一話目からこれでは後の話でも出てくることが予想できる。何たる矛盾、まさしく詐欺といっていい。
そして、決して問題はこれだけではない。
この本が売られている場所も、大いなる問題なのだ。大いなる問題。うん、一番酷い間違いだろうと思うよ。
ジットリとべたつく視線で本を見た。ごく自然に、僕の眉間がしわを作っていることが分かった。
これがミステリー小説だと? ふざけてんじゃねぇぞ糞本屋
僕が手に取った時、確かにこの本のジャンルには《ミステリー小説》という付箋が挟まっていた。
これは大いなる間違いだ。何もミステリーなどおきてはいないし、そのまえに問題ですら起きてはいない。この本のどこら辺にミステリーがあるのか丁重に教えていただきたいな。
ハァァ
のどの奥からため息が出た気がした。
気晴らしに、本から空に目線を送ると、青い、雲などが一つも無く、ただ青い空が広がっていた。一般的にこれが、“すがすがしいほどに青い空”なのだろう。でも、僕にはとても蒼く見えた。
さて、いまさらですが僕はどこにいるのでしょう。ふぅん? 分からないって? じゃぁ、ヒントだよ。では(デサストレ風に)まず、上には青空が見える。ってことは野外であることがわかるよな。そして、本を読んでいるってことは本屋へ行った。でも、今は野外。だから、とりあえず家からは結構離れたところになっているはずなんだ。とかいっても、そんなの僕にしか分からない話だろう? ごめんね。うん、あとはちょっと資料不足だね。もう少しこの場のことを言っておけばよかったよ。
僕の目の前には大きな木があって、そのとなりには誰も乗っていないブランコ。数十メートル先になると、滑り台にジャングルジム、鉄僕に砂場、シーソー——僕が知ってる限りだと、これくらいの遊具しか分からない。あとはほら、みんなでまわして乗る奴。何だったっけなぁ。僕の半端ない記憶力の悪さのおかげで、今日もなにかが思い出せません。
でも、なんとなく分かっていただけたのなら、光栄です。ちなみに僕はベンチに座っている。それも、子供用の小さいベンチにね。
まったく……親も来るだろうに、なぜ子供用しかないのか
ムスッとハエでも飛んできそうなほど不愉快だったが、もしかしたら、そんなことも考えて、ここに呼び出したのではないのかと思うと自然に怒りがわいてくる。
そして、張本人遅刻中————みたいな。
「あのバカヤロウ。こんな場所に呼び込んでおいてなんでテメェが遅れてくるんだよ。しかも、こんな平日の昼真っから良い歳した青年が公園に来て子供用のベンチに座っているって……どう見たって不審者じゃねぇか! もういっそのこと不審者としてここで、坂本竜馬の真似しながらこの本を朗読でもしてやろうか?」
よし、そうしよう。いたって冷静に心の中でつぶやくと、僕はまたさっき閉じた本を開いた。
まぁ続きからでいいか。
えーと……なになに———
——— しかし、わしの考えは甘かった。
その夜のことだったんだぜよ。
ワシが車にもどるとなぁ、なんとそこに居たはずの女の死体がなくなっていたんだぜよ。ちょいと不思議に思ったワシは、まだ数台のこっとった車を辺りかまわず見回したんだぜよ。
そいしたら、なぜか、どこにもその女の死体は無かった……んだぜよ。急に怖くなってきたワシは、その車からはなれ、まだ光のある事務所に駆け込んだんだぜよ。
しかし、そこでワシは気がついたんだぜよ。
今日はワシが最後のひとりで、鍵までしめたんだ……ぜよ ———
———
坂本竜馬さんには申し訳ないが、実は僕あんまり坂本竜馬のことを知らなかったりして。まるで違うような言い方だった気もするが、でも最後に「ぜよ」がついていたのは気のせいじゃぁ無いと思う。
よし、じゃぁまた続きを読みますか
「なになにお兄さん、それウケ狙っているんですか?」
一瞬止まっていた口を再度開きかけたとき、前方からささやかれ、行きなり何かが口の中に投げ込まれた。いや、正確に言うと突っ込まれた。
ビクリと肩を揺らし、僕が前方に目をやると、少女が立っていた。生まれてきたのがまるで僕の第六巻を反応させるためなんじゃ無いかと思うほど奇妙な。
第一印象:真っ黒
カラスのような少女が、その黒い大きな目で僕のことを見ていた。ギョロリと出ているように見える。はたまたぽっかりと穴が開いているようにも見える。そんな小さな少女の大きな目が、僕の体を嘗め回すように、ギョロギョロと動き回っていた。まるで本物のカラスのようだ。僕は静かにそう思った。
身長にしては長すぎる黒い髪も、普通の少女のような艶も輝きも無くただ黒い。そして何よりもその少女の格好が、少女が奇行と思われる大きな問題ではないのだろうか。
今日の真っ青な空に似合わない漆黒色のワンピース(しかもロングスカート)に闇色のとんがり帽子。真昼間にはとても考えられそうに無い。はたまた手には、よく分からない言葉で書かれた題名の分厚い本があった。幸いなことに、ほうきと杖は持ち合わせていないらしい。普通の少女じゃないと言うことはその少女の手が僕の口の中に突っ込まれたところから分かっていたが、少し、いやかなり嫌な予感がする。
おっと? 今これを聞いて君は少し不思議に思わなかったかい?
ちなみに僕なら、この文だけで見れと言うのにはすこし、不思議に思うよ。不満に思うって言うのが正しいのかも知れないけれど。
不思議な感覚が僕の口内に広がっていた。
冷たい少女の指が僕の口内をぐるりと一周し、舌に絡みついておもむろにそれをいじる。低体温の僕はそのあまりにも冷たい温度にゾワリと背中をふるわせた。でも、その冷たさは一向になくならない。
死人か? コイツは。
僕がそう思うのと同時に、少女の指がのどの奥にすべった。
「うっくっ……」
瞬間的に、胃から喉にかけて不快な感覚が走った。そして鼻に香る気持ちの悪い嘔吐物のにおい。その臭いの主は未だにぼくのおなかの中に収まっていたが、胃液だけは口の中に広がった。酸味の強い嫌なあじだ。
幸いなことに、喉に伸びたのはその一瞬だけだった。しかし、まだ少女の手は僕の口内でうごめいていた。安心できるとはいえない。
気持ちが悪い。
こんなことをされて、突っ込まれている身にしてみればいい気がしない。(するという奴はきっと頭がイッてるやつと、相当なマゾヒズムな奴等だけだろう)しかし、僕が今思ったのは、突っ込んでいるほうはどうなのだろうということだ。
はじめに言っておくが、僕にはとてもできる技じゃない。人の口内に自分の手をインするなんて(場合によってはどうなるか分からないが)僕はやりたくない。ましてや胃液の混ざった口内なんてやっているだけで気分が悪くなってくるものだと思わないかい? まぁ僕はあまり分からないけど。
すこしヒク。
さめたような目で少女を見ると、少女はニヤリと頬を引きつられ、舌に絡みついた手に力を入れた。そして、目だ。目が、ギョロリとした目が少女の顔を天才的に奇妙な顔へと変える。
「お兄さん。アサヅキは、そのあまりにもノーリアクション過ぎるお兄さんの反応がショックで、ショックでお兄さんの舌を引き抜いてしまいそうです」
何を言われたのか僕は分かりたくなかったが、つかの間僕は彼女の手首を掴んだ。
細い。小さい少女にしてみればちょうどいいのかもしれないが、とても細い。
少し驚愕しながら、僕はその細い手首を掴みあげている手に少しずつ力を加えていくが、一向に、その動作からは動かなかった。なぜか(いやこの少女のおかげで)ココで動いたらいけないと、僕の(自称よく当たる)第六感が警告していたからだ。
不思議に思ったのか、少女の眉間にしわがよる。
「あれぇ? お兄さんどうしたんですか? どうしてアサヅキの手を引っ張らないのですか? コンナに力いっぱい握り締めているくせに、それで終わり……みたいな。お兄さんはいやらしいですね。そんなに焦らされるとアサヅキは身悶えて死んでしまいますよ。ねぇ? お兄さん。 早く、引っ張ってくださいな。お兄さんの口からアサヅキの手を引っ張りだしてくださいな。お兄さんの舌を掴んだままのアサヅキの手を、お兄さんの口から出してくださいな」
ブルリ。と少女の言葉に身震いながら、頭ではやっぱいりと安心した言葉がよぎった。
よかった。引っ張らなくて。
予想にしか過ぎなかったことだったが、もし手を引っ張りだしていたならきっと、絶対に、僕の舌は……
「まぁ、いいです。アサヅキはとっても優しい子ですからなにもしてくれないお兄さんの変わりに“キレイにとってあげますよ”ね? アサヅキいい子ででしょ?」
グッゥ
押しつぶされるような感覚と、根元から引きちぎられるような痛み、体全身に鳥肌が立った。そもそも、その“行動”はなにも僕だけにかできないってわけでは無かったのに、なんてバカなんだ。
少女の手を掴んでいた手がだらりと腰に垂れ下がった。
死んだわけじゃない。ただ、ストーリーが終盤を迎えようとしている。
これを果たして、自分のストーリーには物語と言えたものがあったのだろうか……答えは求めてない。それは自分が決めるものではない。
僕が抵抗を示さなくなったのに、少女が少し眉をひそめたが、少女の目は覚めていた。
“何もできないおもちゃんてつまんない、捨てちゃおっか”
そんなことでも言われている気分だった。
いまさらながら、少女には思えないような力が、指先に込められ居たことに気がついた。少女のアンナに細いからだのどこに、そんな力があるのだろうか、指先だけだからなのだろうか、フッと息を吐く代わりに静かに目を伏せた。
僕に、抵抗は……なかった。
- Re: 「君にとって、魔法とはなんだ?」 ( No.4 )
- 日時: 2010/12/24 12:50
- 名前: 樹 (ID: mUcdxMp7)
やあ皆さん。僕は先ほど舌を抜かれて窒息死した無能な男です。
ところで皆さんは死んだあとに広がる世界って信じますか? 僕は信じてなんていません、もちろん、今も。
死んだあと、それは【無】。地獄なんてないし、【世界】なんて意味を持たない、とてもいい世界だと思いませんか。そのかわり、天国も無いけど。まぁ別に怖いことじゃない、その頃には感情って言うのも全てからだとともに焼却されて何もなくなっているし、そもそもそれを感じると言う“考えも”無駄だからだ。何も意味だない。何も無い。それさえも感じられない。それさえも考えられない。考えることが不可能だからだ。
でも、それなら今目の前に広がっているこれはいったい何なのだろう。
漆黒色にも見える深いダークブルー色のショートヘアーがサラリと、僕の膝を打った。その間から、より黒の増した眼球が光をキラリと反射させ、僕の狂っている感覚を更にわけが分からなくさせる。
デサストレ。
何でコイツが。
いや、僕だ。何で僕はこんなところに居るんだ。
ゆっくりと首をひねり、この場所を見渡してみるが、ココはどう見ても…………
輝くほど純白に仕立てたれ腰が半分まで沈んでしまうほどフカフカのソファアを贅沢に寝そべり、天津さえ僕の膝枕まで堪能している。堪能。いや、別に僕の膝枕がそれほど気持ちがいいのかは分からないけどさぁ。全ての髪の毛を切りそろえられ、前も後ろもかも分からない、髪の毛の間から覗く目をじっと見つめるが、なかなかおきようとしないし、しかたないか。
「で? なんで僕はこんなところにいるんですか?」
ムフフフフ
ムクッ
「ねぇ、君。君はバカだね」
細い体を起き上がらせ、耳元でそうささやかれるが、残念、僕にはコチョコチョとか全然効かないんだって突っ込みどころはそこじゃないよな。
「はぁ」
なぜ。行き成りそんなことを言わせても、ここに居ること自体全然わけが分からないのに、そんなこと理解できるはず無いんじゃないか。何が言いたいのか全く分からないことが顔に出る、自然に僕の眉間にはしわが深く刻み込まれていた。
「君を、ぼくが死なせるはず無いじゃないか。勝手に死のうとしたって、ぼくがそんなこと絶対にさせないんだかね」
イヒヒヒヒヒヒヒィ
「なーるーほ」
理解した。僕は。
「でもさ、あの状態からどうやって僕を助け出したって言うんですか。そういえばあのアサヅキって子もいませんし……」
とたんに、デサストレの顔が輝き、緩慢な動作で近くのいすを指差すが、何もないよなぁ。
「もっとよくみなよいるじゃん。【いるじゃん】【いるよね?】ほら、そこに」
はぁ?
言っていることがよく分からない。
- Re: 「君にとって、魔法とはなんだ?」 ( No.5 )
- 日時: 2010/12/24 12:39
- 名前: 樹 (ID: mUcdxMp7)
「何を言っているのか、全く理解できませんけれど?」
僕は大げさに肩をすくめて見せながら、ため息をついた。
「ふぅん」
とても冷たいのに微笑みを含めた声が、静かに部屋を包み、瞬間的にキュッと背中の辺りをこわばらせた。
別に、普通の子供相手で、こんなことになることは先ず無い。でも……
一緒にされては困る
絶対に否定しなくちゃいけないほどに、コイツを子供だというのは不公平でならないよ。大人から見ればなおさらね。
できすぎたお子ちゃんに不公平なほどの差と経験で負けるんだ、認められるわけが無い。それは僕も同感ですよ。でも、それでも科学的にそれを証明することはできないから、認めなくちゃいけない。もしできるなら意味不明な病気にでも分類されてしまうだろうね。魔法でも使わなければ、理解ができない。
目の前の、小さな小人を見据える。
握れば折れそうなほど細く、短い手足に、その中心にある小さな胴体。顔は猫みたいに小さいくせに、目だけが大きく主張している。さらさらとした艶やかな髪の毛も柔らかく、見れば普通の子供に過ぎない。
頭にどんなことが入っていようと、ね。
自然に眉がしわをつくり見据え続けると、ゆっくりとデサストレの口がひらいていった。
「うん。君がそれしかいえないことは分かっていたから……フフフ。愉快だよ。そうだよね。だって君の目の前には誰も見えないんだもんね、君には」
君には
なぜか、そこだけが強く孤立して聞こえた。
「僕にはデサストレが言いたいことが分かりませんけど?」
「でも、そんな君でも、理解してもらうからね」
コイツは、話を全く聞いていなかった。