ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Vampire Tear−孤独の君主− ( No.2 )
- 日時: 2010/02/02 18:20
- 名前: 十和 (ID: zCJayB0i)
Episode2‐必然的に廻り始めた運命‐
「皇帝陛下、自分に何か御用があると伺いましたが・・・」
豪華と言える謁見の間に、一人の青年が立っていた。
「ふふ、そんなに畏まらないでくださいな、お兄様。久しぶりに御喋りがしたかっただけなんです」
ごめんなさい、と軽く頭を下げる少女。
「全く、何かと思えばそんなことか。何か問題でも起きたのかと思ったよ」
青年は、緊張していた顔を緩めて笑う。
「だってお兄様、私が普通に呼んでも来ては下さらないでしょう?」
お兄様意地悪だから、と頬を膨らませる。
「はいはい。・・・で?俺を呼んだのは、本当にただ話がしたいだけじゃないんだろう?」
「・・・はい、早急にお伝えしたいことがあるんです」
その場の雰囲気が一瞬で冷たくなる。
「昨夜、EUの中央地域に配置された我が軍から連絡がありました」
「?定時連絡か?それなら俺の所にも入ってきたが・・・」
「いえ、定時連絡のその後にも、連絡が入ってきたのです」
少女は真剣な顔をして言った。
「・・・EUの東地区が、混血種によって殲滅されたそうです」
「?!そんな、たった一日で!?あそこは人口も多かった筈だ!一体どれだけの数で・・・」
「話によれば、敵は・・・約数名だったそうです」
「数名?!有り得ない・・・。一体どうなっているんだ!」
青年は声を荒げる。少女はそれを静かに聞き、思いを言の葉に込める。
「私もそれを知りたいのです。ですので、貴方には今からEUに行っていただきたいのです」
「・・・それが、御命令なら」
青年は少女の前に跪く。
「我が騎士、ジャック。頼みましたよ」
「イエス・マイロード。我がエリーゼ陛下の為に」
青年、ジャックは頭を上げて立ち上がる。
「では、御気を付けて下さいね、お兄様?」
「ああ、無事に帰ってくるよ」
ジャックは謁見の間を足早に駆けて行った。
「皆、混血種について何か情報はないのか?」
ジャックは早速混血種についての作戦を練っていた。
「いえ、こちらには何の情報も来ていません」
EU中央地域の派遣員達は口々にそう言う。
「あ、でも・・・」
「?でも何だ?」
一人の派遣員が声を上げる。
「東地区の外れにある森で、人影の目撃情報が上がってきていますが・・・」
「人影・・・?」
「はい。何でも、人間の女らしいのですが・・・」
地区の外れの、しかも森に人が・・・?
怪しい・・・。とジャックは考えた。
「よし、俺はその森に行く。何人かは俺に着いてきてくれ」
「了解しました。では我々A班が御供を」
数人を引き連れて、ジャックは森へ向かった。
「・・・ここが、その森か・・・?」
「はい、そう聞いていますが・・・・」
どう見たって、人が住めるような森ではないだろう。
陽の光が差し込まない暗い、暗い森。
荒れ放題なその森に、足を一歩踏み入れようとした。
そのとき。
「・・・その森に何か用ですか」
後ろから、ソプラノのような透き通った声が響いた。
「、あ、えっと・・・」
その少女の容貌に目を奪われる。
神話に出てくる美神のようだ。
「こら君!ここは一般人立ち入り禁止区域だぞ!!さっさと自分の地区に帰りなさい!!」
派遣員の一人が声を上げる。
少女は一瞬顔を顰め、改めて声を出す。
「私の家は、森の奥にあるんです。立ち入り禁止か何かは知りませんけど、通してくれませんか?」
疑問符がついているが、明らかに命令している。
「・・・じゃあ、君がここに住んでいるのか?」
「そうですって、さっきから言っているんですけど・・・」
少女は呆れたような顔をして溜め息を吐く。
「ここは危険なんだ。君も知っているだろう?東の地区が混血種に殲滅されたんだ。
まだ近くをうろついているかもしれない、だから避難所の方に移動してくれないか?」
ジャックは少女にそう言う。
しかし、少女は首を振る。
「・・・人がいっぱいいるところは嫌い。誰かも分からないのに、信用なんて出来ない」
切なそうな顔をする。
「ど、どうしますか、ジャック様。事情があるようですし、無理に連れていくのもどうかと・・・」
「そうだな・・・。取り敢えず、本国に連れて行こう」
「あ、アリエスタ本国にですか?!」
派遣員達はどよめく。
それもそうだ。世界で一番の大国、アリエスタに見知らぬ女を連れて行くのだから。
「ああ。皇帝には俺から話をつけておく」
「な、何故そこまで・・・?」
「・・・おかしいと思わないか?あんなに若い女が一人で森に住んでいるんだぞ?」
「う・・・確かに・・・」
「・・・何か裏がある気がするんだ・・・」
少女をちらりと見るジャック。
どこか、不思議な感じのする少女。
「よし、決まりだ。君を今から本国へ連れて行く。そこで色々と聞きたいことがある。
・・・着いてきてはもらえないだろうか」
ジャックは少女に問いかける。
少女は少し考えるような仕草をし、そして頷く。
「・・・わかりました。どうせYes以外の答えなんて用意されていないのでしょうから」
諦めたように言う少女にジャックは眉を寄せる。
「ところで、君の名前は?」
少女はジャックを睨みつけながら答える。
「・・・私の名前は、<リザ>」
このとき、運命が廻り始めたことに気づける者は誰も居なかった。