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Re: Vampire Tear−孤独の君主− ( No.3 )
日時: 2010/02/03 00:03
名前: 十和 (ID: zCJayB0i)

Episode3‐信じるに値する存在‐


「リザ、後数十分で到着する。着陸準備に入ってくれないか?」
「・・・わかりました。固定シートを装着すればいいんですよね」
不満そうにするも、リザは着々と準備を進める。
・・・しかし、本当に綺麗な人だと思う。
絹糸のような黒髪は、彼女が動く度にゆらゆらと揺れて、長い睫毛の縁取る群青色の瞳は宝石のようだ。
整いすぎた顔はいっそ気味悪いくらいで、生きているのか疑ってしまう。
じっと彼女を見つめていると、彼女から声がかかった。
「・・・あの、そんなに見られると動きづらいのですが・・・」
御尤もだ。穴があくほど見られて良い思いをする人などあまりいないだろう。
「あ、ああ、すまない・・・。ついつい見とれてしまって・・・」
馬鹿正直に喋ってしまう。俺は本当に馬鹿だと思う。
「・・・正直なんですね、貴方。そこまで真っ直ぐな人初めて見ました。新鮮です」
リザは珍しいものを見るような眼でジャックを見つめる。
「・・・私も、それ位素直になれたらいいんですけど・・・」  「?」
リザの言葉の意味が、うまく理解出来なかった。


「ただいま戻りました。エリーゼ陛下」
「無事に帰還されたことを嬉しく思います、ジャック。・・・ところで、そちらの方は?」
エリーゼがリザに目を向ける。
「東地区の外れの森にて保護をしました。リザです」
「まあ、森で・・・?それはそれは・・・随分お辛い思いをなさったでしょう?」
エリーゼはリザに問いかける。
「・・・貴方が、現皇帝のエリーゼ・カミュ・アリエスタですか?」
「?はい。私がエリーゼですが・・・」
リザはグッと眉間に皺を寄せて、発言する。
「私は、貴方が嫌いです。エリーゼ皇帝陛下」
その一言に周りの兵士達がざわめく。
「何と無礼なことを!!小娘!不敬罪に値するぞ!!」
そんなことを叫ばれても、リザは発言を止めない。
「こんな立派な皇宮で、豪華な生活を送られているのでしょう?そんな貴方に私達の何がわかるのですか?
 治安の不安定な現状で、それ以上の苦難を強いられている人の何がわかると?
 籠の中の鳥である貴方に、何ができるというのですか」
リザの発言は、責めているようでも、問いただしているようでもない。
・・・まるで、エリーゼを試しているかのような口ぶりだ。
「・・・確かに私は、この皇宮から出たことは一度だってありません。
 貴方の言うように、人並み以上の生活を送っているとも自覚しています。
 ・・・それでも、私はこの国、アリエスタを統べる者として、この国に生きる一国民として・・・。
 出来る限りのことをしています。それでもまだまだ足りません。まだまだ私には出来ることがあります。
 あるはずなんです。・・・ここから出ることは、貴方の言うとおり、きっと出来ないでしょう。
 けれど、<世界>を見ることは出来るのです。<皆>が幸せになれる世界を、造れるんです。
 ・・・こんな小さな存在の私ですが、信じてはもらえないでしょうか・・・」
エリーゼはそっと手を伸ばす。
その手を、リザは値踏みをするように凝視する。
「・・・貴方を、信じる価値はあるのですか」
「少なくとも、誰も信じないよりは価値はあると思っています」
エリーゼの、リザを射抜くような視線。
リザはエリーゼの手を握った。
「貴方を、私は信じるに値する存在だと認めます。先程の非礼、お許しください」
リザは頭を垂れる。それを見て、エリーゼは微笑みを湛える。
「御顔を上げてください、リザさん」
「イエス・マイロード」
二人の視線が混ざりあうのが分かった。
「私と共に、闘ってはいただけませんか?」
「・・・それが貴方の望みなら」
リザはエリーゼの手の甲に忠誠の証を記す。
「わかりました。リザ。貴方を私の騎士に任命いたします」
「有難き御言葉。感慨至極に存じます」
その光景を、ジャックは静かに見守っていた。
・・・歪な運命が廻っていることに気づかないで。