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- Re: Vampire Tear−孤独の君主− ( No.5 )
- 日時: 2010/02/04 16:51
- 名前: 十和 (ID: zCJayB0i)
Episode5‐混沌とした世界の秩序‐
場所は変わってEU中央地域、アリエスタ軍隊本部。
「ジャック・・・で、良いんですよね」
「ああ。俺もリザって呼んでるし、別に呼び捨てにしてくれて構わない」
空中艦隊から降りながら、そんな話をしている二人。
「じゃあジャック。今から何をしにEUへ?本国の混血種を殲滅することの方が重要なのでは?」
リザの質問に苦笑いしながらジャックは答える。
「・・・何で、か。実は俺にもわからないんだよね。エリーゼの考えは突拍子もないからなぁ・・・」
「エリーゼ陛下が?全て指揮しているのですか?」
「地域別にはその地域のリーダーが指揮するが、根本的には全部エリーゼがやってるぞ」
「・・・へぇ・・・」
納得したように頷くリザ。ジャックはそれを見ながらはにかんでいた。
『・・・見た目は子供なのにな・・・』
リザ曰く、彼女は18歳らしい。俺より2歳年下なのに、醸し出す雰囲気が大人っぽいと思う。
「・・・ジャック。私の顔に何か付いていますか?またジロジロ見てますよ」
リザの注意にハッとする。しまった。また態度に出ているのか。
「私の顔がそんなに珍しいですか?一般人と変わらないと思うんですが・・・」
そんなこと思っているのは君だけだ。とは敢えて言わない。
「・・・まあ、そういうことにしておこうか」
「はぁ・・・。・・・ところで」
リザは本部の外にある崖の上に立つ。ジャックも直ぐに横に並ぶ。
「・・・酷い、有様ですね」 「・・・ああ」
目の前に広がる光景は、焼けた大地、肉の焦げる匂い、響く轟音・・・。
「治安の悪くない地区だったはずなんだ。なのに、混血種がすべて奪っていったから、こんな・・・」
泣き叫ぶ子供たちが目に映る。なんて、哀しい・・・。
「・・・混血種、が悪いんですか・・・」 「?」
リザはただ、冷たく視線を落とす。
「人間の決めつける<善>が、果たして本当に全てなのでしょうか。
混血種の求めるものは、果たして本当に全てが<悪>なのでしょうか。
・・・見える世界が、果たして本当に<全て>なのでしょうか」
リザがジャックに問いかける。・・・見据える瞳には射殺さんばかりの意思が宿っている。
「・・・だが、何が善悪にしろ、生き残るためにはどちらかが生き残り、死ぬしかないんだ」
そう答えられた時のリザの顔。・・・泣きそうに歪んでいた。
混沌としている世界の中で、ただ一つ、透き通って美しく見えたのは気のせいだろうか。