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Re: Vampire Tear−孤独の君主− ( No.6 )
日時: 2010/02/04 22:03
名前: 十和 (ID: zCJayB0i)

Episode6‐混血種vs人間‐


「どちらかが・・・ですか」
リザは何ともないというような顔をして、また崖から下を見下ろしていた。
「・・・それじゃあ・・・」
リザが何か言いかけたその時、耳をつんざくような音が聞こえた。
超音波のような、聞き心地の悪い音。
「っ、一体何の音だ?!」
ジャックが耳を押さえながら辺りを見わたす。
リザは耳を押さえることなく、冷静に視線を巡らせる。
「・・・これはきっと、混血種の襲撃直前の唸り声。仲間達に勝利を宣言する合図じゃないかと」
リザの推測通りの言葉が、後ろの仲間達が叫びだした。
「大変ですジャック様!!混血種が集団でこちらに攻めてきています!!」
リザとジャックは目で合図をし、そのまま崖から飛び降りた。
「AからD班は右から、EからH班は左、俺とリザは正面から攻撃開始!!」
「「「「了解!!!」」」」
混血種の数は50〜70と言ったところか。正直きついかも知れないが、やるしかない。
ジャックはマシンガンを両手に持ち、一気に敵に向かって弾を撃ち込む。
轟音に轟音が重なって、酷い不協和音だ。
『・・・!リザは大丈夫だろうか。何と言ってもまだ戦ったこともない初心者なのに・・・』
そう思ってジャックはリザの方を見る。
・・・ジャックは、目の前の光景が信じられなかった。
リザは、鮮やかに戦場を駆けていた。疾風のごとく、光のごとく。
無駄な動きなど一つもなく、洗練された動きが美しさを生んでいる。
「小娘が!!!お前なんかに何ができるって言うんだ!!」
混血種の一人がリザに襲いかかる。
リザは、たじろぎもせず、ただ微笑みを湛え、次の瞬間には相手を足技一つで地面に叩き付けていた。
「ッ、な、何なんだお前!!何でそんなに強いんだ!?・・・ゥグ・・・」
これ以上は喋るなとでも言うかのように、リザは混血種の頭を更に地面にめり込ませる。
「・・・・ふん、笑わせるなよ雑魚共が。所詮は貴様等ただの鳥合の戦士だろうが。
 そんな貴様等が、私に勝てるとでも・・・?それこそ愚の骨頂、嗤うにも程があるぞ」
残虐な笑みを浮かべ、リザは剣を振り上げる。
「っ!!待てリザ!!殺すな!!!!」
リザはその言葉を無視し、混血種の首元に剣を突き立てた。
刺さったところから、鮮血がトクトクと溢れてくる。
「・・・っリザ!!何故命令を聞かない!!」
闘いながらジャックはリザに向かって叫びつける。
リザは横目でジャックを見ながら言う。
「・・・だって、どちらかが生き残って、死ぬしかないんでしょう?なら、殺せばいいじゃないですか。
 ・・・貴方だって、そうして生きてきたんでしょう?今更ですよ、そんなこと」
リザの言葉にジャックは少しのショックを受けた。
当のリザはそんなジャックを放置して、また戦場に駆けて行く。
少しの間だけ、本当に、刹那だったけれど。ジャックは動きを止めたのだった。

結局、この戦いはアリエスタ軍の勝利だった。混血種の生き残りは、リザが全て殺した。
命乞いをする相手に容赦なく、剣を振るっていた。
<どちらかが生き残って、死ぬしかないんでしょう?>
そうだ。どちらかしか生きられないんだ。
ジャックは自分に言い聞かせていた。
そこに、リザがやってきて、二人の間にしか聞こえないような声で呟いた。
「・・・その矛盾。いい加減に気がついた方がいいですよ」
美神の化身のような少女は、優しく死刑宣告を下してくれた。