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Re: Vampire Tear−孤独の君主− ( No.7 )
日時: 2010/02/04 22:45
名前: 十和 (ID: zCJayB0i)

Episode7‐純白の忠犬‐


あれから数日後。東地区の混血種の殲滅はほぼ終わり、ジャック達は本国に帰還していた。
久しぶりの故郷に懐かしく思うものが多かったが、ただ一人、ジャックだけは晴れない顔をしていた。
『矛盾、か・・・。そんなつもりは全然なかったんだけどなぁ・・・』
自室でベットに突っ伏し、枕に顔を沈めて溜め息を吐く。・・・かなり息苦しい。
その一連の行為を何回か繰り返してると、控え目にドアをノックする音が聞こえた。
「・・・はい?鍵開いてるから入っていいぞ」
「はい。では失礼させていただきますね」 「っ?!エリーゼ!!何でこんなところに??」
来客がエリーゼと知り、急いでベットから起き上がるジャック。
「お願いがあるんです。頼まれてはいただけないでしょうか」 「?今度は何だ?」
ジャックは少し屈んで、エリーゼと目線が合うようにした。
「皇宮の中の食糧が足りないらしいんです。お兄様、買ってきてはいただけませんか?」
「俺が?世話係に頼んでもダメだったのか?」
心底不思議そうに聞くジャックに、エリーゼは静かに微笑みこう答える。
「お兄様じゃないとダメなんです」

「・・・で、俺は御使いに使われてるわけだな」
皇宮の周りを取り囲む市場で、ジャックは人波にもまれながら前に進んでいた。
「ま、気晴らしになるしいいんだけど・・・」
そこでふと気付く。もしかして、エリーゼは俺に元気がないのを知って、慰めようとしてくれたのか?
そう思うと何だか顔の筋肉が緩んでくる。優しい妹を持って、幸せだと思う。
そんな感覚に浸っていると・・・。
「!!わっ、ちょ、お兄さん危ない!!!」
勢いよく走ってきた少女にぶつかられたのだ。
「アイタタタ・・・。お兄さん大丈夫?えらい派手にぶつかってしもて・・・堪忍な?」
手を顔の前で合わせて首を傾げる少女。
「い、いや、怪我がないのなら別に・・・」
いい。と言いかけた時、向こうから怒声を発する男が走ってくる。
「こら待て林檎泥棒!!!」
その声に反応して少女の手元を見ると、腕イッパイに抱えた林檎の山が。
「うわヤバ!!お兄さん走って!!」 「は?!ってうわぁ!!!」
少女はジャックの手を掴むと、ものすごい勢いで走り始めた。
『な、何なんだこいつは!!!』


「はぁ・・・、ここまで来ればもう大丈夫やろ。お兄さん本間堪忍ね、いきなり走らせてもて・・・」
足きつかったやろ?と場違いな質問をしてくる。
「・・・それ、盗んだのか?」 「ん?ああ、これかいな。せや。ウチが盗ってったんやで?」
それが何か?とでも言うように少女は真剣な顔をして見つめている気がする。
帽子を深く被っているため、表情がよく読みとれない。
「・・・何故、そんなことを・・・?」 「何故?!おもろいこと言うなぁお兄さん」
ケラケラ笑う少女。ジャックは驚愕から頭からクエスチョンマークを浮かべていた。
「これは、元々ウチラの所の林檎や。それを横から取って行きよったんはアンタラやないの」
少女がどこかに去ろうとするので、俺は止めようと肩を掴む。
そのとき、少女が被っていた帽子がずるりとずれ落ちた。
「!!」 「・・・あ〜ぁあ。バレてもた」
帽子の下から現れたのは、銀色の美しい髪。フワフワしている髪が、肩より上で跳ねている。
その頭の少し上あたりの両サイド。人間ではありえないものが生えている。・・・犬の耳だ。
「お前、混血種か?!」 「アンタラにんげんはまあそう呼んどるな」
ニコニコと笑う、混血種の少女。
「そこを動くな!!」ジャックはマシンガンを構える。
「・・・止めとき。弾の無駄遣いやさかい」
抱えていた林檎の一つを齧る少女。
「まあ、バレてもたから名前くらい言わなアカンのかな?」
面倒やわぁ、とか言いながら少女はまた林檎を齧る。
「初めまして!ウチはデディ。キングの右腕やってるんよ。ま、よろしく頼みますわ」
とか言う少女、デディの発言に耳を疑う。
「キング?!Blood Kingのことか!!」 「キング言うたらそのキングしかおらんやろ」
アンタ頭大丈夫か?と本気で心配してくる。
「奴はどこに居るんだ!!」 「えぇ〜??ウチ忠犬やからそんなこと言えへんねん」
そう言って、走り去ろうとする。
「!おい!!」 「一つだけ教えたるわ」
デディがくるりと振り返り、にやりと笑う。
「キングはめちゃめちゃ強い。本気だしたら、アンタラ人間なんか一発で全滅や。・・・肝に命じときや」
それだけ言って、デディはどこかへ行ってしまった。
・・・Blood King。血の王。奴さえ潰せば・・・。
ジャックの決意とは裏腹に、王は更なる運命の歯車を回すのであった。